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「では、私からこれ以上お話しすることはないと思います。」
沈黙の後、佐山は低く静かな調子を崩さないままそう言った。それに納得できない私は佐山を睨み上げた。あのときの私の目は多分、構造上ありえないくらいきつくつり上がっていたと思う。
しかし佐山はその目を正面から見返すと、淡々と言葉を重ねた。
「村上さんがなさっていることは、それで全てですよ。心配なさらなくても、危険なことはなにもありません。」
「ただの売春だってこと?」
私は落ち着き払った佐山の表情を崩したい一心で、そんな言葉を投げつけた。しかし佐山は僅かばかりも動じず、ただ一度頷いただけだった。
「じゃあ、あんたも買ってんの?」
しかし私のその言葉は、佐山の表情を変えさせた。一瞬だったが、確かに佐山は怒りとも憎しみともつかない色で私を睨みつけたのだ。それは私が呼吸を忘れるくらいに鮮やかな色彩だった。いっそひどく美しいくらいに。
「私ごときが買える人ではない。」
佐山の声音は先ほどまでとは変わらなかったが、私はもう彼になにも言えなかった。あんなに激しい情動をあの男に寄せる佐山に、私がなにを言えただろうか。あの男に対してなにも持たないし持たれてもいない、私が。
佐山はそこから引き続き私の世話を焼きながら、久しぶりに会う親戚みたいに当たり障りのない話題を、NHKのアナウンサーみたいに無害で薄っぺらい微笑とともに投げかけてきた。
学校は楽しいかだとか、なんの教科が好きかだとか、部活はなにをしているのかだとか。
私も親戚の女の子みたいに、いささかぶすっとした顔でその問いに答え続けた。
楽しい、国語、入ってない。
私の生活に一片の関心もないことは火を見るより明らかなのに、佐山はいかにも関心があるような相槌を打ち、私はそれを聞くたびに胸がむかついた。多分佐山には、私がむかついていることくらいすぐにばれていただろう。
「じゃあ、まっすぐ帰ってくださいね。」
商店街を抜けるところまで私を送った佐山は、やはり親戚のお兄さんみたいなことを言いながら手まで振って私を見送った。そしてその爽やかさにまるで見合わない彼の視線は、軟体動物が這いずるみたいな嫌な滑らかさで追いかけてきて、家に着くまでずっと私の両足に絡みついたままだった。
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