第4話 幻の村

 明治時代というと、まだまだオカルト的な話が各地に残っているというものだ。

 大正時代になると、少し都会的なことが発展してきて、大正ロマンなどと言われるものが生まれた。

「ロマン」

 というものこそ、都会の文明が発達しないと出てくるものではないと思うのだが、明治時代は、まだまだ、田舎のいわゆる都市伝説的なものが、残っていたのだった。

「地図に載っていない村」

 というのは、この場所だけではなく、全国にはいくつも存在した。

「じゃあ、その土地の管轄はどこなのか?」

 ということになるのだろうが、地図で見ると、気にしなければ、そのあたりをつかさどっている都道府県のものであることになる。

(ちなみに、明治末期には、東京都は東京府であったため、都道府県ではなく、道府県だったのだが)

 しかし、そんな土地であっても、境界線が赤く書かれていた。そして、その内部の地名は何も書かれていない。書いてはいけない部分だということであろう。

 書いてはいけないというよりも、立ち入れないだけに、書けない土地なのだ、事前調査も何もできず。村の名前もハッキリとは知らない。きっと江戸時代から、その村は特別な村だったのだろう。

 そもそも、県にも、中央政府にも、その土地の資料は一切残されていない。だから、今回聞いた伝説についても、誰からも聞いたことのないものだった。

「これでは、話にならないな」

 と思った県の職員は、今度は、また隣村に話を聞いてみることにした。

「ああ、その伝説なら、隣村の話なんじゃないか?」

 と言われた、わざとどこの村のことなのかということを明かさずに聞いてみたのだが、その方が、より正確な情報を得ることができるからだと感じたからだった。

「隣村の話として、その土地が細分化されているというところと、一つだけ、毎年豊作だという不思議なところがあったという話を聞かされたんだが」

 というと、

「その村では、やってきた奥さんに子供が生まれて、里子に出されたことを苦にして、奥さんが自殺したというものなんだけど、どうやら、その村は、女の子が生まれると、里子に出される風習があるというんだ」

 というではないか。

「じゃあ、跡取りの問題などで?」

 と聞かれたが、

「それは違うと思う。わしらのような百姓に、跡取りもくそもないからな。どうやら、村の女性で、生粋の村人というのがいてはいけないということだったらしい」

 というのだ。

 先ほどの村の話と、酷似していて、微妙に違っていることから、二つを合わせて辻褄を合わせると、それが事実になるんじゃないかって思うのだった。

 一つ気になったのは、

「最初の村で聞いた時、隣村の伝説と言って聞いた話と、今度は反対の村で聞いた時、酷似した部妙に違う話を、隣村の話といって聞かされた」

 ということが、どうにも腑に落ちないことであったのだ。

 どちらもが、

「隣の村の話」

 ということで話が伝わっているということは、それぞれの村に、偶然、隣村という都市伝説が存在したということなのか。

 それであれば、話としては辻褄は遭っているが、そうなると、酷似はしているが、肝心なところはあるで割符のように、片方に分散して残っているというのもおかしな話ではないか。

 それを思うと、

「地図上に存在していない村」

 というものの存在に信憑性がもてるし、かと言って、微妙に違っているのは、一緒にできない何かが存在しているからなのかも知れない。

 その話を誰から聞いたのか、県の中で、不思議に思っている人がいたのだ。

 その人は、大学教授で、県が郷土の調査を行う時に、いつも協力を願っている人で、彼がいうには、

「都市伝説ではあるが、何か、本当のことが多く含まれた伝説のような気がする」

 というのであった。

 そんな村であったが、実際に存在した小さな村が、今では一つの大きな村になっていた。その村で話を聞くと、

「確かに、昔は、狭い範囲で一つの村を形成していたということだったが、そこは、中央の威光が含まれていたというのですよ。同じ村でも狭い範囲で、土地の作物が違っているという。一つの村にしてしまうと、不公平が出るということと、政府の方も年貢の取り立てが難しいということで、江戸時代までは、狭い範囲での村とされていたんですよ。特に秀吉による太閤検地では、石高制にするための検地だっただけに、コメの取れる量や、コメ以外の作物に関しては、国交厳しくしていたんだそうです、江戸時代まで似たような考えだったことで、結局、一つの村を細分化することにしたんだそうです」

 というのだった。

「じゃあ、その中のいつも豊作だったという村は、尊属したんですか?」

 と言われ、

「いいえ、明治になって。土地改革が行われた時、ここは、やはり細分化しないとどうしようもないということで、そのまま行ったんですが、うまくいかないということで、この豊作が続くところだけ、地図から消えることになったんです。でも、それから、パッタリと豊作ではなくなったようです。それを狙っていた政府だったが、うまくいかずに、腹いせなのか、地図から抹殺されてことになったんです。そのことから不作続きの土地になったようで、結局、その土地がどこにあったんかもわからなくなり、「地図から消してしまったことで、本当に村が一つ消滅してしまった」ということになったんです。だから、この村が今では伝説になってしまい、もし復活してくるとすれば、それこそ、オカルトの世界だって話もしていたんですよ」

 というではないか。

「幻の村」

 ということでしょうか?

 というと、

「幻というのか、政府が地図から消したので、本当に消えたのであれば、幻ということでしょうね」

 一つの時代が終末を迎え、新たな時代が芽生えてくると、幻や、幻覚が見えたりするものだ。魑魅魍魎たる時代がやってきたのか、それもこれも、黒船来航がきっかけだったのだ。

「ただ、一つ気になることがありまして」

 と、伝説について話をしてくれた人が思い出したようにいう。

「それはどういうことですか?」

 と聞くと、

「その村にお嫁に来た、お唯という娘がいたということですが、結局、最後は自殺をしたという話になっているんですが、その前に、一人の子供を海落としているという話なんです」

 というと、

「それは男ですか、女ですか?」

 と聞くと、

「それは分かりませんが、彼女の生んだ子供にはいろいろな伝説があるようで、この村の先祖だとか、今でもその子供は人知れず、どこかで生まれ変わるという伝説になっている」

 という。

「それは、生まれ変わりというか、輪廻転生というか、自殺をした彼女が生まれ変わるというたぐいのものでしょうか?」

 と聞くと、

「そういう話もあります。違う話も存在し、どこまでは本当の言い伝えなのか分からなくなっています。きっと、隣の村と話をすり合わせれば。分かってくるものなのかも知れないですね」

 というではないか。

「じゃあ、この村では、隣村に残っているという伝説について話は聞いていて、そのうえで、気になる話だと思っているということでしょうか?」

 と聞くと、

「ええ、そうです」

 と言って、真剣なまなざしを向けていた。

 それを聞いた県の人間は、

「この村だけではなく、さらに反対側の村の伝説も聞いてみないといけないな」

 と感じているのだった。

 今度はまた隣村に話を再度聞きに行って、そこで、隣村から聞かされた話を聞くと、

「ああ、それはこちらでも、そのお唯という女性のウワサは残っています。お唯は、元々、隣の村の長から送り込まれた密偵だったというんです。密偵だったのだが、男の純粋さと暖かさに惹かれて、結婚することになった。それはそれは、幸せな夫婦生活だったようです。でも、いいことはそんなには続きませんよね。子供の問題で、家を追い出されたと聞きました。それは、裏切ったバツだという風に、ここでは伝わってますね」

 という話を聞いて。

「そうなんですね。それこそ、昔話によくある。いうことを聞かなかったから、戒めや報復のようなものであるといえるのかも知れませんね」

 と言った、

「我々としては、その女性がこの村の存在を滅亡に追い込んだ何かを持っているような気がして仕方がないんですよ。ただ、それでも、話としては残っている、ある家には、掛け軸としても残っていると言います。それだけ伝説というの、辻褄を合わせることが難しく、かなりの時間がかかって、やっと解読することになるんですね」

 というのだった。

 伝説がまたしても、少し違っているではないか。

「微妙に違うということは、二つを合わせれば、事実になるのではないか?」

 ということも考えられる。

 そもそも、隣村同士が、

「実は隣村に、伝説が伝わっているということを聞いたことがあって……」

 というところから、同じように話が始まっていき、実際に行きつくところは同じような話なのだが、実際には、どの途中がまったく違っているのだ。

 そう思うと、伝説として伝わっている話というのは、何やら

「幻の村」

 というものがキーワードとなっていることで、そのキーワードを解き明かすことで、見えていなかったものが見えてくるのではないだろうか。

「ところでお唯の子孫と言われる里子に出された女の子というのは、どうなったんでしょうね?」

 と聞くと、

「その話ですが、今でもどこかにいるという話らしいです。本人はお唯の子孫だということを意識はしているようなんですが、それを周りの人に知られると、村八分にされる可能性があるということで、誰にも言えずに、心の中にしまい込んでいるということなんだろうです。ただ、これも話というだけで、どこまでが本当なのか分かりません。この村に残る伝説として、口伝として残っています」

 と神妙な顔つきをして、村人は先を続けた。

「その子はかなりの、子だくさんのようで、里子に出された子供が生んだのが、八人であり、そのすべてが女の子だったと言います。その生まれた子供も、子供が生まれる時になると、またしても、皆生まれたのが女の子だったということなんです。だから、お唯の子孫と呼ばれるのは、数十人はいることになるんでしょうが、皆、女性だというところが皮肉なところですよね?」

 というのだった。

「というと?」

「だって、お唯は生んだのが女の子だということで、子供を里子に出され、最後には理不尽さからなのか、悔しさからなのか、自殺を企てたということになるのだから、そもそも、女性が生まれる可能性が高かったということで、こればっかりは、神様でもない限り、どうしようもないですよね」

 と、村人は言った。

「元々は、その村というのは、男子でなければ、村に残れないということだったわけでしょう? 下手な言い方をすれば、女性は子供を産むだけという形ですよね?」

 と県の人がいうと、

「そうなんですよ。普通は逆なんですけどね。女性ばかりがいて、男性がいないので、子供を産ませる種馬として、どこからか連れてくるという話を聞いたことはありましたが、本当であれば、明治のこの時代には、そんな扱い方を男子にしてはいけないんでしょうが、子孫を残すためということであれば、それも致し方がないということで、実際に行われている村はあるそうです。でに、女性ばかりの村が存在しているということを聞いたこともないし、どういうことなんでしょうね?」

 ともう一人の件の人間がそういった。

「そうでもないですよ。女ばかりの村というのも実際に存在していて、それなりに伝説も残っているようです」

 と、村人は言った。

 相沢ちひろの育った村のことであるが、その当時から、ウワサとしてはあったのだろう。

 日本にこんな変な村が存在するというのもおかしなもので、しかも、意外と近いところにある、

 それを考えると、

「それぞれに、その源流は近いところにあるのではないだろうか?」

 という風に考えられなくもない。

 かたや、女性ばかりの土地、そしてかたや、男性ばかりの土地と、まったく正反対であるが、共通点もないわけではないだろう。

 まず何と言っても、そんなおかしな村というのが、世間には伝説のような形で、

「知る人ぞ知る」

 という程度であったという点。

 そして、婿に入ったり、嫁に行ったりした人が、子供を作るというだけの意味で、よそ者を受け入れるという点。

 さらには、それらの村が、政府の手によって、抹殺されたかのように、地図上から消されてしまったという点である。

 明治末期には、お唯のいた、

「女だけの村」

 というのは、本当に地図上でけではなく、この地球上から消えていた。

 どこかの村に吸収されてしまったのだろうが、イメージとしては、跡形もなく消え去っているといってもいいだろう。

 こういう村は、少しでも特徴が消えていたら。存在価値がないといってもいいだろう。

 では、男性ばかりの土地という、相沢ちひろの村はどうなのだろう?

 女だけの村は明らかに明治政府によって、存在を抹殺されたところで、女性ばかりがいた村というのは、自然と存在が消えてしまったのであろう。

 時代が進んできて、戦争前くらいの世間が動乱に満ちていた頃に発表された、探偵小説に、似たようなシチュエーションがあり、少し怖かった。

 その話というのは、

「ある小説家が、ある妄想に取りつかれたかのように、小説を発表すると、まわりの人や、文芸評論家の人たちから、下劣な小説であるなどと、酷評を受けた。それに反発した小説家は、田舎に籠ってしまい、表に出てくることはなくなっていた。しかし、その男はひそかに自分を嘲笑した連中に対して復讐を考えていたのだ。美少年を作り上げて、彼らを誘惑し、そして、気も狂わんばかりにさせてやろうという計画だった。そのために、頭の弱い男女をどこかからさらってきて、監禁し、愛し合うように仕向けた。女は妊娠し、玉のような男の子を生んで、その子を復讐の兵器にしようと企てたのだ」

 これが発端である。。

「そこで、子供が一歳になるくらいの頃には、親二人をまたそれぞれ、どこかに捨てに行ったのだ。もちろん、どこに監禁されていたのかなど分からないようにである。結果、その子は復讐の道具として使われるようになる」

 という話なのだが、この話の中にある、

「絶世の美男美女をどこかからさらってきて、そして、その二人が、頭の足りない二人であるというのがミソなのだ。頭が弱いことで、その生まれてくる復讐鬼に、自分が悪いことをしているという罪悪感を与えないこと、そして、氷のように冷たい美しさを、この小説家が望んだこと、それが、この話のもっとも、恐ろしいと思って見たところであった」

 という話であった。

 この話を中学時代に図書館で読んだことから、克彦は、自分が育った村のことを思い出し、自分の祖先が、この村のお唯であったという可能性はどこまであるというのだろうか?

 そもそも、お唯には女の子しか生まれずに、その子も、皆女の子だったというではないか。

 そのことを考えると、自分の出生の秘密について、本当のことを知らない自分がかわいそうに思えてきたのだった。

 子供の頃は、

「自分の出生の秘密なんて、どうでもいいや」

 と思っていた。

 ただ、大人になってくるにつれて、生まれや、家の格式で、あからさまに人生や運命が決まってしまうというのが、恐ろしいところであった。

 だからというわけではないが、当時の日本は、同和問題というのが、叫ばれていて、それまで存在していた部落などというものが次第になくなってはいたが、風習や世俗的なところで潜んでいるという、

「歪んだ時代」

 だったといってもいいだろう。

 時代とすれば、昭和の高度成長時代を通り越して、経済大国と言われるようになった頃であろうか。

 克彦の父親が、ちょうど大学時代の頃だった。

 藤森克彦。彼の父親は、当時、この二つの村のことを気にかけていて、卒論のテーマにしようとしていたのだ。

 父親は、子供の頃から、まわりはいつも男の子だった。

 女の子が一切寄ってこないのは、なぜなのかまったく分からなかったが、高校生くらいになって、その理由が分かったような気がした。

「神経質すぎるんだ」

 というのが答えだったのだが、ただの神経質というわけではなく、潔癖症が、病的だったのだ。

 ただ、ちょうど彼が大学時代だっただろうか。ちょっとした伝染病が流行ったことがあった。

 あまりにも限定的で、範囲も、F県と、S県の一部だけだったこともあって、全国のニュースにもならなかったくらいだった。

 だが、そういう災害関係にはデマは風潮がつきもので、

「この伝染病では、罹ってしまうと、五人に一人は死んでしまう」

 であったり、

「特効薬も予防薬もないので、家を出ないこと、人に触ったりしないことが大切だ」

 と言われたしていた。

 それを、藤森氏は、真剣に信じた。

「どこに行くにもマスクをしている」

「人が触ったものには絶対に触らない」

「絶えず携帯用のアルコール消毒液を携帯している」

 などの徹底ぶりだった。

 令和になってから、全世界的に流行した伝染病の時には、まさにそれくらいのことが当たり前であったが、当時は陰でひどいことを言われていたのだ。

 確かに、あのデマが本当であれば、そこまでの行動はないのだろうが、そこまで誰もデマを信じなかったのは、マスゴミの影響が大きかったからであろう。

 マスゴミというのは、とにかく大げさに書くものだ。

 自分たちが良くも悪くも、拡声器であるということをどこまで意識しているのか、実際にその覚悟を聞いてみたいものだ。

 一番の大きな罪としては、大東亜戦争への引き金になったことではないだろうか。

 大東亜戦争は確かに避けられないものだったのかも知れない。

 第一次世界大戦で敗れたドイツに、寄ってたかっての一方的な責め、さらに、新しい体制としても、社会主義国の台頭。さらに輪をかけての、経済の世界大恐慌。さらに、ファシズムの台頭と、時代は、戦争へと突っ走っていったのだ。

 日独伊軍事同盟を、

「勝ち馬に乗る」

 という考えや、経済で疲弊している国が、ブロック経済で、自分たち大国だけが、生き残ろうとする、いかにも露骨な大国のやり方に対して立ち上がった、いわゆる、

「持たざる国」

 の同盟だったのだが、もう一つ大きな共通点があった。

 それが、

「民族の統一」

 という発想ではなかったか。

 ドイツはホロコーストに見られる、ゲルマン民族を中心としたドイツ人による世界征服。それにはユダヤが邪魔だったのだろう。同盟を結んだ日本に対しても、ヒトラーは人種の違いであまり好意を持っていたわけではないともいうではないか。

 イタリアは、ファシズムにおける国家統一として、

「かつてのローマ帝国の振興を取り戻す」

 というもの。

 そして日本は、東アジアから、欧米を駆逐して、そこに、日満漢朝蒙による五属共栄、さらには、王道楽土をスローガンとして作り上げた満州国との協和による、

「大東亜共栄圏による、共存共栄」

 を目指していたのである。

 これが戦争を行う大義であったのに、占領軍によって、使えなくなった言葉を、今でも律儀に使用してはいけないかのような風潮から、太平洋戦争などという詭弁に満ちた戦争名称を聞くと、虫唾が走る思いである。

 そんな戦争の嵐が吹き荒れようとしていた時代、日本は中国に進出した。

 本来は、満州を死守し、ソ連の南下政策に歯止めをかけるためには、本来であれば、中国とは戦線を一にすることで、共通の敵に対峙するということもできたはず。

 そもそもの、満州事変のきっかけとなった。満蒙問題というのは、ソ連との確執から生まれたものだったはずだ。

 しかし、朝鮮を併合し、中国に侵攻してくることになると、中国民族の反日感情を植え付けることになり、さらに、当時の中国は、中央政府である国民党、満州地区にあった軍閥勢力である、北閥勢力。さらには、中国共産党と、三つに分かれて、内乱を繰り返していた、

 日本軍は満州国との絡みから、北閥勢力に近く。欧米列強は、北京やその他の租借地の絡みで、国民党政府を、そしてソ連は当然のことながら、中国共産党を支援していた。

 つまりは、中国内乱は、

「列強の勢力拡大の縮図」

 でもあったのだ。

 日本の特務機関と、北閥勢力の動きが活発になってくると、中国人民の抵抗は大きくなり、元々の反日運動と重なって、日本に対して目の敵にしてきたのは、いうまでもない。

 満州を力づくで奪ったという意識が強いのだろう。中国人における日本への反感はハンパなものではなかった。

 そんな時、盧溝橋事件が発生する。現地の和平交渉から、その時はそれ以上の戦線拡大はないかと思えたが、そこからの中国の反抗はすごいものだった。

 郎坊事件、公安門事件などの中国軍による挑発事件であったり、さらには、中国の行った極悪非道の虐殺事件として有名な通州事件などが起こったことで、日本は中国に挑発される形で、シナ事変が勃発してしまった。

 中国側は、南京事件を大きく虐殺事件として言っているが、それ以前、少し前の時点で、中国側が行った通州事件を出されると、何も言い訳はできないはずである。

 そんな状態を見た日本国民は、中国への怒りをあらわにし、対中国戦線を、国民が煽ることになる。それに飛びついたのが、マスゴミだったのだ。

 その後、大東亜戦争への、無謀な戦争へ突き進むことになった一番の責任は、マスゴミが煽ったことで、政府や軍が後に引けなくなったことが一番の原因である。

 しかし、マスゴミというのは、権力には弱いものだ。

「ペンは剣よりも強し」

 などという言葉が嘘っぱちであるということを序実に表している。

 情報統制によって、国民の目を欺いて、何がマスコミだというのか。

 それは戦時中だったことで、仕方のない部分もあるだろうが、戦後において、占領軍が撤退した後の独立国家になってからというもの。

「大東亜戦争」

「シナ事変」

 という言葉を使ってもいいということになっているにも関わらず、使おうとはしない。

 大東亜というのは、戦争のスローガンであり、大義名分だったはずだ。それを封印するというのは、マスゴミが扇動して、反日感情を、自らが日本人に植え付けているようなものではないか。

 さらにシナ事変というのが、本来の言葉で、日中戦争という言葉は正確には間違いである。

 なぜなら、戦争という定義は、

「お互いの国が相手の国との戦闘状態を、全世界に公表し、まわりの国の体制を決めたうえでの戦闘状態」

 のはずである。

 つまり、

「宣戦布告」

 が必要なのだ。

 しかし、この戦争は、

「宣戦布告することで、第三国が中立か、どちらかの味方に付くかという選択を迫られると、アメリカから武器、弾薬を提供してもらっている中国とすれば、アメリカに中立を宣言されると、何も供給を受けることができなくなり、戦争継続が難しくなる。日本としても、アメリカが中国につくことをあからさまに表明されるのを怖がったということもあり、どちらも、国益から、宣戦布告をしなかった」

 ということである。

 宣戦布告のない戦闘状態は、戦争とは呼ばず、事件、事変ということになるのだ。そういう意味で、これも、途中まではシナ事変であり、日本が英米蘭に宣戦布告した時点で、中国がアメリカの側につけば、何ら問題がないということで、中国が日本に宣戦布告、ここから、終戦までを日中戦争と呼ぶのだ。

 それが歴史の事実なのに、なぜ、教育ではハッキリとしたことを教えず、いまだに、

「太平洋戦争」

 だの、

「日中戦争」

 だの言っているのか、まったく理解に苦しむ。その扇動をしているのが、マスコミなのであるのだ。

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