第4話

碧はその体に似合わず足がはやい。駒割部長は必死に追うが差がどんどん広がっていく。


「はぁ、はぁ、まっ、て、って」


靴箱で履き替えた碧が校舎から出る手前で立ち止った。


「じ、神宮前君、ま、待ちたまえ。私は運動は……」


すると碧が駒割部長の唇に人差し指をあてる。二人の間に緊張と静寂が訪れる。


幽かにサイレンが鳴っている。


それもどんどんこちらに近づいてくる感じだ。

碧が目を細めると正門の先、真っすぐに続く道の先を何台ものパトカーがこちらに向かってくる。それも音はどんどん大きくなり360度周りからまるで3Dサラウンドスピーカーのように聞こえてくる。包囲される可能性があるということだ。


「まさか、これ君を」


“東門だ”


おそらくエキドナと思しき声が本から聞こえる。

すぐさまそのもっさりとした体で碧は実に機敏に走った。辟易とした表情で駒割部長も跡を続く。


学校を数えるのも大変な数のパトカーが取り囲み機動隊と警察官が防弾盾を向け、拡声器で校舎に向かって話す。


「神宮寺碧、こちらは警視庁特別警察……」


何事かと早くきた生徒や先生が校舎から身を乗り出す。

東門の校舎の前で拡声器を使う警察官の前にあ大きなマンホールが少しずれていることにはまだ誰も気付いていない。


「な、はぁ、はぁ、なんで来た事もない学校の下水道の地下道まで知ってんよ! あぁもう臭い!」


駒割部長はハンカチを鼻にあて息は苦しいは臭いは足元はびちゃびちゃになるは散々な心地だった。

碧と駒割部長は狭く辛うじて立って移動できる下水道を移動していた


“言っただろう。我々は様々なネットワークを持っているのだ、世界の事はだいたい調べられる”


エキドナが本の中からまた答えた。

その時駒割部長の足元で何か動いた。


ネズミだ。


猫ほどの大きさのドブネズミが二人を追い抜くように走っていく。駒割部長は血の気がひいた。


車が二台くらい並走できそうな大きな場所にでる。急に碧のが立ち止まり、膝をつく。


「お、重い」


本が負担のようだと駒割部長が本の底を持つと本当に重く驚愕の表情で碧を見る悪魔の本が普通でないことは差し置いてこの重い本を持ちここまで逃げている見た目ぽよぽよの碧に驚いていた。


“もう頃合いだ。本を開いてくれ”


エキドナの声に、汚水に付かないように二人で膝に本を置きゆっくりと開くとふっとエキドナとリリスが目の前に現れた。その瞬間信じられないくらい本が軽くなった。


「だいぶ、魔素を取り込んだ。ここからは自力で移動できる」


声は音としてハッキリ聞こえた。二人がしっかりと実体化している証拠だった。


「重ねて礼を言うぞ。無事に高い場所まで連れていってくれれば、少年の願いを一つ叶えてやろう。なんでも欲しいものを言ってくれ」


「え、なんでも?」駒割部長は疲れを忘れたかのように立ち上がる。


「なんでもだよ。少年。なんならお前、リリスにご執心なんだろぅ?」


 リリスはエキドナの発言に次の言葉を予想したのか、またぬいぐるみを強く握つしめ、うつむいた。


「一晩リリスと私が共たっぷりと……」



話している最中にエキドナは言葉をのんだ。


碧は拳を握りしめ明らかに怒りの表情でエキドナを見たからだ。


リリスはエキドナを真っすぐ見る碧の表情を見て目を少し見開いた。


その時、真っ暗で広い下水道の先から大きな音がした。

刹那、駒割部長の髪を何かがかすめた。

猛烈なショックと熱さで部長は体がすくんだ。全員が一瞬で理解した。


銃撃だ。


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