第2話

  「で、なんで君はこんな早朝にココにおるん? 」


漫画研究部の駒割部長(三年女子ショタ愛)は朝7時に部室の隅で古い本を抱えニタニタしている碧を見て大袈裟にたじろいだ。

 

「見てください駒割部長。この大きくて宝石のように輝く瞳、なびく金色の髪、小さくて食べちゃいたいかわゆい掌。ああ。あぁ!」


 碧はまた顔を真っ赤にして自分の頭をポカポカ叩いた。


「神宮前君。ついに幻覚症状かね。いくら一生モテないと確信したとしても人の道を踏み外してはいけ……」


 話ながら碧の肩を掴むと駒割部長にも本に封じ込められていた金髪少女姉妹が急に見えるようになった。少女は妹の幼女をかばうように背中を見せて碧からガードしている。


“見るな! 怖い! この変人が!とりあえず妹からもう少し離れろ!”



「しょ、しょえぇ!!」


「どうですか駒割部長。わかりますか?! 私のこの感動」


「いやいやいや、これは萌えだね神宮前君。これ、いやこの方達はなんだね。新しいゲームかね? 何のハードかね? 見事な3D映像だ」


「……本に封印されていた、悪魔?」


「いやいやいや、そんな非現実的な。教えたまえよ何のハードだい?」


“その名で我々を呼ばないでほしい”



妹をかばいながら金髪美少女はこちらを見て話し始めた。


“私の名前はエキドナ、妹はリリス。先ほどは結界から出してもらい助かった。改めて例を言う少年。 お前少年だよな?”

 


碧は制服を着ていなかったら40歳くらいに見えなくもない。


“我らは元々君たちとは次元の違う世界の住人だ。こちらの世界ではエネルギー体といえばわかりやすいかもしれない。人間で言えば魂だけの存在なのだ”


「魂だけ? 面白い設定だね。実体がないのに存在できるのかね?」


駒割部長は碧の肩を掴んで身を乗り出し話に割り込む。


“できるさ。少しずつ空中の魔素を取り込んでね。魔素を沢山取り込めば実体化も出来る“



少女は駒割部長を見つめて微笑を浮かべた。


「え、これ」


しっかり受け答えをされた駒割部長はドキッとした。


エキドナと名乗った少女は話を続けた。


“かつて私達と人間は密接に関係していた。私達は自分たちで繁殖することができない。人間に乗り移ることで生殖機能を借りて生まれた子供が我らの子となる。だが人からすれば死産になる。代理とは言え生まれた子を奪われた我々を呪うのはわかる。だから我々は極力一族を増やさない。そして、その代償に沢山の仕事をしてきた。我らはエネルギー体だから何処にでもいるし何処にでもいない。世界中どんなところの物も見られるし、世界中の仲間と連絡を取り合える。物の魂を我らが移動することで、その物体を世界の裏側まで移動することも出来るのだ。”


「すごい」

駒割部長はあいづちを打ったが、碧は碧はリリスを見てニコニコし続けていた。


“だが人間が私欲のために我々を強奪や窃盗に使いはじめ、我々を悪魔と呼ぶ人間がどんどん増えていったのだ”


エキドナの話に妹の幼女リリスも悲しそうな表情になる。

それを見た碧の拳は強く握られた。


“そうした人間が我々を悪と祟り、悪魔狩りが横行した。様々な悪魔祓い術があるというが我々は本に閉じ込められ強い結界下で永年にわたって封印されてきた。だが我々に、もはや利用価値は無い。私達は本の中からも少なくなった仲間と念話により人間の情勢を知ってきた。様々な通信手段、インターネット。流通もそれなりの速さで世界中に行き渡る。我々の持っていた利点は人間はもう持っている。さして必要性がないものなのだ”


エキドナは碧と駒割部長に向きなおった。


“ずっと君、いや君たちのように波長が合う者を待っていたのだ。改めて我々を逃がしてくれないだろうか? 高いところに連れていってくれればそれでいい。仲間が迎えに来てくれる。人の暮らせない場所でひっそりと暮らす我らの集落へ連れていってくれる”


 突然のお願いに駒割部長は困惑していたが、碧の肩が震えていることに気が付いた。


 「ゆ、ゆるせん……こんな幼気(いたいけ)な少女を悪魔呼ばわりとは」


 碧の憤激の顔に一歩たじろぐ駒割部長。


 「リリたんは俺がそこまで送りとどけてみせるからね」


 再びありったけの笑顔でリリスを見つめる碧。

エキドナの後ろに隠れるリリスに話かけると熊のぬいぐるみをギュッと抱いて碧を見つめる。


“ところでお前、私のことは本当に見えているのか? 私もそれなりに美しいと思うのだが……いや別にいいんだが”


エキドナは妹ばかり見る碧に少しいらついた。

駒割部長は碧の襟首を引き寄せ耳元で囁いた。


「これは本当にゲームなのかね」


碧は部長に少し顔を向けた。


「もし本当にこれがゲームでないとしたら私は反対だ。これが何かは置いても悪魔と言われ封印された理由があるはずだ。もっと大人に相談するべきだ。あくまでこれが現実だというのならだが」


碧は何も答えず眉をくねらせ口をとんがらせた。


すると突然部室の戸が勢いよく開けられた。

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