羽化

高村 芳

羽化


あなたは変わっていく。

あなたは変わっていく。

まるで卵から芋虫が生まれるように。

霧のような春雨が降った翌日、

校門で見かけたあなたはいつもと少し違っていた。

無造作にくくられていた髪は下ろされて、

制服のスカートから膝小僧がのぞいていた。

それは本当に些細な、小さな変化だった。

そんなこともあるだろうと、

たいていの人は道端に小石が転がっているくらいにしか思わなかったかもしれない。

朝焼けが照らす葉の上で孵化したあなたを、

僕だけが知っていた。

あなたは変わっていく。

あなたは変わっていく。

まるで卵から芋虫が生まれるように。



あなたは変わっていく。

あなたは変わっていく。

まるで芋虫が蛹になるように。

夏の放課後の図書室、

僕は隣に座るあなたを横目で盗み見る。

癖毛だった髪はいつのまにかストレートになり、

淡く甘い香りが僕の鼻をくすぐる。

参考書をめくる爪は整えられ、

葉末に浮かぶ朝露のように輝く。

僕はその爪をひとつ撫でてみたいと思いながらも、

ノートを開いて数式を書き写す。

彼女は髪を耳にかけながら、

静かにそのときを待っている。

あなたは変わっていく。

あなたは変わっていく。

まるで芋虫が蛹になるように。



蛹はじっと耐えながら、冬を越す。

蛹の中は一体どうなっているのだろう。

眼鏡はコンタクトになり。

唇にはリップがひかれ。

瞳には柔らかな光が宿り。

頬はうっすらと赤らむ。

その硬い皮膚をひんむいて中を見れたら、

どれだけ僕の心は楽になるだろうか。

あなたは変わっていく。

あなたは変わっていく。

いつしか訪れる、春のために。



あなたは変わった。

あなたは変わった。

まるで蛹から蝶が羽化するように。

校舎の影、桜が舞う樹の下で。

美しいあなたと、

見覚えのある男子生徒の後ろ姿。

二言、三言交わしたあと、

あなたの華奢な手を

無骨な男子生徒の手がそっと握りしめる。

渡り廊下からふたりを見つめる僕の涙腺が

じんと熱く痺れるのがわかった。



あなたは変わった。

あなたは変わってしまった。

まるで蛹から蝶が羽化するように。

僕は美しい蝶の羽ばたきを、

遠くからそっと、そっと見つめていた。




  了

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羽化 高村 芳 @yo4_taka6ra

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