第13話 婚前祝賀会

 明日に婚礼の儀を控えて、迎賓館では内外の貴族、国賓を招いての婚前祝賀会が開催されていた。


 すでに招待された国内の貴族は立食を楽しんでおり、壇上の国王と婚約者のシャルロットに順番にお祝いの言葉をかけているところだった。


 招待貴族の中には当然のことながら、アードレー家侯爵夫妻も含まれており、各貴族からの祝辞を受けていた。


 祝賀会の前半は国内の貴族からの祝福を受け、後半に海外からの来賓たちの祝辞を受ける手筈となっていた。


 前半の立食形式が終わり、国内貴族たちは会場中央の赤い絨毯を挟んで、左右に用意された席に移動した。


 祝賀会にはダンブル国からは皇太子夫妻と辺境伯など王国と密な交流を持つ貴族が招待されていた。また、ダンブル国以外の各国からは使者が送られてきていた。


 最初に東の島国の使者が二名ホールに入場し、絨毯を歩いて、壇上まで登り、国王とシャルロットに祝辞を述べた。贈り物の目録を司会が読み上げる。豪華な内容に会場からため息が漏れた。


 各国の使者が同じような形式で祝辞を述べていった。


 シャルロットは非常に満足だった。


 次はいよいよ最後のダンブル国の皇太子御一行だ。


 まず最初に女性二人が先導するような形で入って来た。非常に美しい女性だ。さすが美人の産地と言われるダンブル国だけある。会場からため息が漏れた。


 シャルロットが王を横目で見ると、締まりのない顔をして、女性に目を奪われていた。


(この人は女性の容姿にしか興味ないのよね)


 続いて、皇太子夫妻が現れた。まさに美男美女を絵に描いたような二人だった。特にカトリーヌの美貌は、先ほどの先導の美女二人が色あせてしまうほどだった。会場の貴族たちは、女性も男性も皇太子と皇太子妃の両方に目を奪われていた。


 貴族の一人が妻にささやいた。


「皇太子妃様はシャルロット様のお姉様のカトリーヌ様だ。シャルロット様をも上回る美貌ではないか」


「ええ、素敵な方だわ。ティアラに埋め込まれてる宝石もすごいわよ。ああ、あとあのネックレスの中央は『ダンブルの涙』じゃない? お召しものの仕立ても上品で、質の良さがここまで伝わって来るわ」


 シャルロットはカトリーヌの豪華な衣装も装飾品も目に入って来なかった。皇太子に目が釘づけになってしまっていたのだ。


(あの方、ダンブルの皇太子だったの)


 心臓の鼓動が高鳴るのを感じた。恋焦がれる気持ちを抑え込み、やっとのことで諦めた学園の君だった。


 皇太子夫妻は二人とも正面を向いて歩いて来るが、時折見せるヒューイのカトリーヌに向ける愛に満ちた優しい目と、カトリーヌのヒューイに向ける潤んだ瞳が、二人の愛の深さを物語っていて、シャルロットは異常なまでの嫉妬心を燃え上がらせた。


 野蛮な国の野蛮人を夫に連れて、学園にいたときのように、暗い表情をして帰って来るとばかり思っていたのに、自分が夢中になった美しい青年を伴侶にして、幸せそうな表情でいるなんて。


(許さないわ、絶対に許さないわよ、カトリーヌ!)


 シャルロットはヒューイからの祝辞は全く耳に入らず、カトリーヌを夜叉の如くずっと睨み続けていた。ベールで目元が隠されていなければ、外交問題に発展してしまう表情だ。


 カトリーヌは睨みつけられているのは分かっていたが、涼しい顔をして、目を伏せて、口元に笑みをたたえるだけだった。


(カトリーヌ、こんな幸せそうな表情をあなたがする資格はないのよ)


 シャルロットはカトリーヌが壇上から下がるまで、ずっと睨みつづけた。

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