第7話 対面

 ヒューイは僅かな護衛を連れて、カトリーヌとの会見場所に急いだ。


 王国は間抜けが多いが、国王と宰相は油断ならない。カトリーヌは学園では実力を隠し通していたが、卒業試験は本気を出したと報告がきている。その報告が国王に届いているとまずい。


 国の将来がかかっているのだ。ヒューイは不安で仕方がなかった。


 ヒューイは会見場所の宿屋に入り、セッティングをチェックした。


 学園生活を見る限り、友が一人もいないカトリーヌは、かなり気難しい性格のはずだ。正直、夫婦としてやっていく自信はないが、ヒューイはカトリーヌの気持ちをどんな場合でも最優先させるつもりでいた。


「カトリーヌ様をリリアがお連れしました」


 ヒューイは緊張した。


「こちらにお通ししろ」


***


「カトリーヌ様、こちらでございます。なぜ殿下がこのようなことをされるのか分かりませんが、ご気分を害されておられないでしょうか?」


 リリアは非常に恐縮しているようだ。どうしてこんなに私に気を使うのだろうか。


「いいえ、大丈夫よ」


「では、こちらに。足元にお気をつけくださいませ」


 私は広間に通された。上座にあぐらをかいて座っている若い男がいた。


 私はこの人を見たことがある。学園ですごい人気があった男子だ。


 シャルロットも夢中になって、アードレー家で素性を調べたが、よく分からなかった。一年ほど前に転校してしまったため、シャルロットも最後には諦めたが、諦めるまで大変だった。


(ひょっとしてあの超人気だった男子がヒューイ殿下?)


「貴様、何者だっ!?」


 こちらが挨拶する前に男が立ち上がって、剣を抜いた。


「!?」


 リリアが私の側をすぐに離れた。私を敵認定したらしい。


「カトリーヌ・アードレーでございます」


 私はそう言うしかない。


「嘘をつけ。俺がカトリーヌの容姿を知らないと思ったようだが、俺はカトリーヌと面識がある」


 私はピンと来て、髪を下ろした。


「この幽霊姿でしょうか?」


 ヒューイが目を見開いている。


「む、本当にカトリーヌか?」


「殿下、これを。カトリーヌ様が先ほど馬車の中で書かれたメモです」


 メモを読んでいたヒューイの口角が上がっていった。


「この達筆、何十人もの考察が入ったような練り上げられた策。こんな人間が世の中に二人もいるものか。ああ、確かに君はカトリーヌだ。俺はこの日をどんなに待ち望んだか。しかも、こんなに美しい姿も隠していたなんて。カトリーヌ、君には本当にいつも驚かされる」


 ヒューイは私の前にひざまずいた。側に控えていた官吏たちとリリアも慌てて一斉にひざまずいた。


「カトリーヌ、君の力を貸して欲しい」


 そう言ってヒューイは頭を下げた。側近たちが目を見開いて驚いている。


 さすがに私もテンパってしまった。


「あ、あの、殿下、おやめ下さいっ」


「ヒューイでいい、カトリーヌ」


 この人、学園にいたときは遠目にしか見たことがなかったけど、近くで見ると、怖いぐらいの美形ね。こんなキレイな男は初めて見たわ。


 しかも、私の容姿ではなく、能力に惚れ込んでいるのね。


「ヒューイ様」


「呼び捨てでいい」


「ヒューイ…、私の能力をどのようにお使いになられるおつもりでしょうか?」


「敬語も不要だ。時間を節約しよう。君の能力をこの世界と人類のために役立てたい。俺はその手助けができる。一緒にやっていこう」


 まさか、こんなに私の意に沿った考えを持っている人がいるなんて。兄さんの導きだろうか。


「ヒューイ。お役に立つよう頑張るわ」


 この人、理想の伴侶だわ。

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