そっちか

 昨晩の話です。


 お風呂を上がると、左目の下まぶたの裏に、小さなゴミが入ったようで、なんだかゴロゴロしています。


 しかし、鏡で見ても、何も無いのです。


 ただ、赤い粘膜ねんまくがあるだけ。


 でも、なに異物いぶつがあるのです。


 私は、すぐに理解しました。


 これはきっと、透明な繊維せんいのようなゴミが入っているのだと。


 お風呂上がりに、タオルで顔を拭いたときに、入ったのでしょう。


 黒や青だったら、赤い粘膜の上でよく見えますが、透明ならば、見えなくて当然です。


 ゴミの正体は分かりましたが、気になり始めてしまったらもう、気になり続けてしまいます。


 私はあらゆる手を尽くして、透明なゴミを取ろうとしました。


 綿棒でそっとさぐってみたり、人工涙液じんこうるいえきをじゃばじゃば流してみたり――。


 しかし、取れません。


 奥へ行ってしまったのか、小さいのか、透明なゴミは、一向いっこうに出てきてくれません。


 私は、諦めました。


 と言っても、一生このままなんて嫌ですから、生物本来の力で、異物が除去されるのを待つことにしたのです。


 目がゴロゴロする、とは思いつつも、小説を書いたりなんだりして、待っていると――。


 いつの間にか、透明なゴミがある感覚が消えていました。


 良かった。


 私は、ほっとしました。


 だって、一生取れなかったらどうしよう――とまでは思っていませんでしたが、いつ取れるか分からないというのは、不安でしたので。


 そして、長時間、私を悩ませた透明なゴミですから、ぜひともそのお姿を拝見はいけんしたい。


 私は、目頭めがしらを、ティッシュペーパーでぬぐいました。


 赤いゴミでした。


 そっちか。

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