第34話 そのスキルは日本でも欲しい。
ガダン! ガゴンガゴンカコンカコンガコンガコンカコン……。
どうやら目的地に着いたようで、遠くから聞こえてくる音からするに、天空橋と名付けられた雲と鳥居の通り道が再度現れているようである。
わたし達はそれぞれ準備した荷物を持ち、玄関に立つ。
「これ、念のために渡しておくね」
銀色の鍵と小さなハンドベルを渡す。
「これは?」
「魔女の家に飛ぶためのアイテム」
レベル4とレベル5は入るためにアイテムが必要なようで、それがこの二種類となっている。
あ、わたしは無くても入れるんだけどね。
「鍵は鍵穴が無くても扉があれば、魔女の家に飛んでこられるから」
ここね、と今居る場所を指で示す。
「扉が見つからなかったら、ベルを鳴らして。魔女の隠れ家に飛べるらしいから。ただ、わたしもまだ入った頃ないから、敷地内に飛ばされるだけで、家に入れるか分からないかな? もしかしたらここに飛ばされるかもしれないけど」
「……なるほど、なるべくベルは使わない」
わたし自身分かってないせいで信用度0なベルは緊急時という事になった。
一緒に行動するのなら必要ないのだけど、今後どうなるか分からないし。それに、もしかしたら、山道を歩いているうちにはぐれるかも知れない。
そんな時にも有用だろう。
何よりも、今は一緒にいるけど、この世界の事がだんだん分かってきたら彼らは本来の目的であるダンジョン攻略に精を出すだろう。
でも、わたしはそんな物騒なところに入り浸るつもりはない。
あちこち旅をして、色々楽しみたい。
静さんもたぶんわたしと同じだ。
戦闘が使い魔頼りになるのはアレだけど……。
でもねぇ。ダンジョン攻略をせっせと頑張ろうとは思わないよね……。
「皆さん、忘れ物はないかしら?」
家から出たところで静さんが、再度確認を取る。
大丈夫っす。と再確認する事無く鏡が答え、ズボンのポケットなどを軽く触るなどの仕草を見せた者が数名。きっと普段ならスマホや財布を入れているのだろう。
ここだとたぶんスられる可能性の方が高いのでポケットにはそれこそハンカチしか入れてないはずだ。
そう言ったやりとりを行った後、わたし達は魔女の家から着陸……? 着山……? した山へと雲の道を渡る。
「日が暮れる前までに降りられるかな?」
空を見ながら恭介が口にする。
「間に合わなかったら野営すればいいんじゃない?」
わたしが軽く返すと、男子諸君にジトっとした目で見られた。
「ダンジョンほどではないけど、山での野宿もそれなりに危ないと思うよ?」
「言いたいことは分かるけど、わたし、基本、眠る場所困らないもの」
「くっ、チートめっ」
と、悔しそうなのは大地。君たちだって十分過ぎるほどの能力貰ってるでしょうが。
そう思ったけど、口にはしない。
大地の能力だったら、たぶん、わたしの方が能力的には上だと思う。
「そういえば、大地は白魔術使いに職業変更して貰った方がいいんじゃない?」
「へ?」
「治癒師より白魔術使いの方が結界とか補助とか使えるみたいだよ」
「マジで!?」
ばっと恭介に視線を向ける大地。
恭介は首を横に振った。どういうやりとりなのかと疑問に思っていると、どうやら、恭介は知識の泉を使って、自分達の職業やスキルの事を調べたりしてた事を教えてくれた。
「つまり、白魔術師は治癒師の上級職ってわけだ」
「上級職……。そういうくくりになるかはちょっと分からないかな?」
なんせ、職業を得る時には下級職とか上級職とかくくりなんてなくて一覧にずらーっと並ぶだけだし。
あと、白魔術師、じゃなくて、白魔術使いだよ。
そんな話をしていると先頭を歩いていた拓が足を止めた。
そして、わたし達にも制止するよう、ジェスチャーを行った後、彼は物干し竿という名の武器を構えた。
いや、他にも包丁とか持ってるけどね。リーチがあるし、とそれも持って歩いてるのよ……。
シンッとわたし達に緊張が走る。
ガサッと風ではない葉擦れの音がした。
カザサ、ガサと音と共に、少し先の茂みが揺れる。
そして現れたのは、膝くらいの高さの丸っこい……イノシシかな? 豚かな?
あ、なんかかわいい。
そんな暢気なことを思ったわたしだったけど、その丸っこいイノシシは、わたし達を見て、驚いたようで、プキープキーと、鳴き、こちらに向かって書けだしてくる。
この世界でもイノシシは猪突猛進ですか!?
そんな突っ込みが口から出る前に、拓が物干し竿を使い追い払おうとしたようだけど、突進力に物干し竿がひしゃげたのを見て、危険と判断したのか、彼は包丁を取り出すと一度、足蹴にし、蹴り飛ばすと、包丁をナイフの様に投げた。
木の幹にぶつかったイノシシを包丁で磔にする。
「流石……。でも、ちょっと動物虐待っぽいな」
「……返り血を浴びたくなかった」
貴史の言葉に、拓は少し目をそらして答える。
そんな答えに、ナルホドと納得するべきか、君、本当にちょっと前まで、日本人の学生さん? という疑問を浮かべればいいのか。
いや、きっとダンジョンで色々学んだんだろうなと、最初に会った時の姿を思い出して、考えを改めた。
その後、特に戦闘というものはなく、山を下りることたぶん三十分くらいだろうか。
「お、村発見」
山間の村を発見した。
ひとまず、その村まで行ってみることになった。
「こんにちは」
山を開墾して作ったのだろう村はそう大きくも無い感じだった。
第一村人に笑顔で声をかけるわたし達。
背の曲がった男性はわたし達を一睨みしてくる。
「ヅヌゲ、ドダパシ?」
……何語ですか?
「ゴネネボリゾ」
戸惑ったのはわたしだけで、恭介はあっさりと返事をした。
周りを見ると、戸惑った様子はない。
はっ! 言語スキルだ!
うわぁぁん! わたしだけ分からない! せめて、文字だったら魔女の瞳で分かるのに!
そうだ! 字幕! 字幕にならないかな!? 映画とかみたいに!?
漫画の吹き出しとかでもいいからさ!
頑張れ! わたしのチートスキル! 魔女の瞳!!
会話がドンドン進む中、わたしは必死に、映画やゲームの様な字幕や、漫画の吹き出しにならないかとイメージトレーニングする。
ステータス見る画面がつけられるなら、会話のための分の画面をつけられるっしょ!?
と、もしかしたらスキルからすればかなり理不尽な事を思ったかも知れないが、わたしとしても必死である。
そして、具体的な案を思い浮かべたのが良かったのか、ステータスを表示する画面と同じ画面が出てきた。
「キレノシベブウオヅカ」
村人1【この村に宿屋はありません】
やった出た!!
一人内心、ガッツポーズを取る。
「弱ったな……」
「村の片隅に眠る場所さえ確保させて貰えればいいんじゃないか?」
恭介の呟きに貴史が返す。
実際、わたし達は寝る場所をそんなにこだわらない。
ぶっちゃけていうと、静さんの荷物にある馬車を置かせて貰えれば、その馬車の「扉」で、魔女の家に帰ることも可能なのだ。
それに先ほども言ったが、野宿でもかまわないのだ。
「ねぇ……」
わたしがみんなに声をかけると、かぶせるように村人1さんが笑う。
「カカッ」
「え?」
村人1さんが笑ったとわたしには聞こえたが、皆には別の言葉に聞こえたようだ。
見てなかったからなんて言ってたかは分からないが、聞き返すような事だったらしい。
「ドニレカパベボサアブガ」
村人1【私の家に泊まってください】
彼はそう言って、にこやかな笑顔を見せた。
親切な人で良かったわね。と、静さんは笑う。
わたしも笑みを浮かべるが、村に入ってすぐに、嫌な視線をあちらこちらから感じた。
そして、夕食時。
たぶん、いっぱい食べてくれよ。と、いう言葉と共に出された食事には。
【毒あり:睡眠薬】
【毒あり:痺れ薬】
という文字が全ての料理にポップアップした。
「……大地。全部睡眠薬と痺れ薬入りなんだけど、治癒魔術で、料理から消せる?」
わたしの言葉に全員の動きが止まる。
日本語で話しかけたので、村人1にはさっぱり分からないだろう。
「この世界には良い人間っていないのか?」
鏡が嫌そうに口にする。
「いや、君たちの運が悪いだけじゃ無いかな?」
少なくともわたしは君らに会うまではそこまで運は悪くなかった。
例の魔女くらいだ。
「料理から消すのは無理かな。……食べた瞬間治癒するとかそんな感じで誤魔化す?」
そんな話をしていると、村人1は、ゆっくり食べてくれ。と声をかけ、そして、村長に旅人が来ていると説明してくるよ、と家から出て行った。
そうする事でわたし達が安心して食べるだろうという事と、そして人手を呼んでくるんだろう。
「……これ食ったら耐性つくかな?」
拓が恐ろしいことを口にした。
「治癒魔術かけたら付かないんじゃ無いか?」
貴史が返しながらフォークを手にする。
「「ギリギリのところでよろしく!」」
と、二人は料理を口に入れ始めた。
マジか! 君らは本当にゲーム脳すぎるだろ!?
じゃあ、俺も。と鏡まで参戦し始める。
静さんはそんな三人の行動にあたふたし、恭介がスキル耐性について説明をし始める。
わたしは、というと、大地と同様、万が一がないようにと新しい使い魔を呼び出して備えたのだった。
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