九尾の弟子

龍蚦 馨

初歩編

邂逅

壱話 酔イドレ夜半

「・・・うるさいな。もう少し黙っていてくれ」

 時々そんな独り言を漏らしながら一人の男子高校生が俯きがちに歩いていた。彼の名は影森かげもり こん。狐櫻高校の生徒だ。普段から人と関わらない彼はいつでもクラスで浮いている。彼の両親は彼が物心ついてすぐに亡くなってしまったため、彼は今一人暮らしをしている。小学校の頃は親戚が面倒を見ていたが、子供ながらに両親が亡くなっても涙一つ浮かべなかった彼を不気味に思い彼が中学に入ると同時に縁を切った。つまり、彼は今孤独なのである。彼にはある秘密がある。それは妖怪の類が見えるという事。

(おいおい坤~!もっと会話してくれよ~)

 そして、心の中にを有していることだ。坤のもう一人の人格の名をけんという。坤は多重人格者であるが、乾と坤は互いに干渉し合っている。しかし、乾が表に出てくることはほぼ無い。坤にとって乾はただのもう一つの思考に過ぎない。

(おい坤。そこの路地裏

「・・・何かって何だよ」

(分かんねェから何かだろ?)

「それもそうか」

 坤は乾の言われるがままに少し細い路地裏に向かった。

「うう~頭痛い・・・」

 そこには飲んだくれた一人のアラサーくらいの女の人が倒れていた。

(なんだ。酔っ払いかよ)

「さっさと帰るか」

 坤は来た方向に踵を返した。

「いや、チョイチョイチョイチョイ・・・こんなナイスバディの女性が倒れとって、無視するか。普通」

 急に倒れていた人に話しかけられた坤は少し混乱した。しかし気を取り直し、女の人の方を向いた。

「酔っ払いは絡まれると面倒くさいんで」

「そうじゃろうけど・・・もっとこう・・・助けてあげようみたいな心は無いんか」

「!」

「はっ!全くその考えはなかった。って顔やめい!はうっ、大声出したから頭痛が・・・」

 何とも賑やかな人だなと坤は思った。しかし助ける義理は無いので坤は無視して家に帰ることにした。

「だから待たんか!そこの‼」

 坤と乾の関心はその女の一言に一気に移った。坤の周りには歩行者など誰一人いない。つまり坤を見てと言ったのだ。再び頭を押さえて痛がっている女に坤は懐疑の目を向ける。

「アンタには何が見えてるんだ・・・」

「知りたいか?知りたいならわらわに水を買ってこい!」

 坤は女の言いなりになることに対して釈然としないと感じながら近くのコンビニに走った。


「ふぅ少しは落ち着いた・・・」

 女は坤の買ってきた水を物凄い勢いで飲むと傍の壁を頼りに立ち上がった。

「じゃあ水はありがとうな。少年。この礼はいずれまたする。達者でな」

 立ち上がると女はそう言って坤の横を風の様に去っていった。

(何だったんだ。アイツ)

「俺が知るかよ・・・」

 坤は一人路地の入口で立ち尽くした。

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