ククリ村の祝福

 森を抜けた俺たちはククリ村に到着した。ククリ村の人達は俺たちが戻ると、盛大に祝福してくれた。あんまり感謝されたことが無いからどう反応したらいいのか分からないな。俺が反応に困っていると村から1人の男の子が飛び出した。


「父ちゃん!」

「アレス!」

 どうやら、腕を骨折した男の人の子供のようだな。2人は人目を気にせず抱き合った。それを皮切りに次々と村の人が飛出し、無事に帰ってきたことを喜び合っている。まぁ、俺には抱き合うような相手もいなければ、知り合いもこの世界にはいないからなぁ、このまま俺は静かに消えるとするか。俺は後ろを向いてその場を離れようとした。


「おぉい! どこいくんだよあんちゃん!」

突然首に腕を回され、絡まれた。あんた腕を折ってんだろ? なんでそんな元気なんだよ。そしてそのままズルズルと引きずられ、みんなの前に立たされた。


「みんな聞いてくれ! 俺たちが無事村に帰ってこられたのはこの……そういえばアンタの名前はなんだ?」

「なんだよ……凱、土門凱です」

「そうか! 俺たちが帰ってこられたのはガイ様のおかげだ!」

 男が俺の腕を上にあげると、村の人に拍手され、盛大に称えられた。まるでこの村を救った英雄扱いだな。


「ガイ様! この村を救っていただきありがとうございます!」

「ガイ様~!」

 ……でも、まぁ、称えられるのも悪くはないかな? 悪い気はしないけど、恥ずかしすぎるな。


「その腕に巻き付けてる土はなんだ?」

「これか? これは……折れた腕を治す魔法らしい」

「なんと! それでは骨折し放題ということか!?」

 だから、骨折し放題ってなんだよ。なんで骨折をそんな簡単に起こせると思ってんだこの村は。この村の共通認識になってんじゃねぇか。


「よ~し、ガイ様の為に今日は村を上げて盛大に宴会だ!」

「いや、俺はもういいよ!」

「何言ってんだ! この村の英雄を祝福しなくてどうするんだよ、みんな準備するぞ!」

 あぁ、こういうの苦手なんだよな。あんまり目立つのも好きじゃないし、とはいえ……お腹は減ってきている。食べるだけ、そう食べるだけだ。


 俺は宴会に参加することになった。この村の一番デカい家で村中の人が集まり、料理やら飲み物が次々と運ばれていく。俺は1段上の座敷みたいなとこに座らされ、みんなに見られる位置で食事をする羽目に。


「そうか、ガイ様は”二ホン”という世界から転生したのか、服装もその世界の物だってことだな」

「いや、日本は世界じゃなくて、世界にたくさんある国の日本ってやつだって! 何度言ったらわかんだよ」

「国もたくさんあるんですよね? 見てみたいなぁ」

 見れるわけねぇだろ、簡単に行き来できると思うなよ、旅行じゃねぇんだぞ。転生を軽く見過ぎだぞ? 俺が好きで来たと思ってんのか?


「しかし、この世界ではその格好は少し目立ちますな。どうですか、この際この世界になじむために格好を新調されては?」

 この村の長老が俺に服の新調を勧めてきた。確かにこの服だと目立つか……。随分と使い古したヨレヨレのTシャツにジーパンだからな。


「それじゃ、新調……しようかな?」

「よ~し、なら善は急げだ! みんなガイ様が服を新調されるぞ!」

 何か、事あるごとに盛り上げすぎじゃないか……。俺は若い女性たちに引っ張られ、服をいくつも試着させられた。


「ガイ様は土属性の魔法を使うと聞いております。”土”のイメージは黄色、黄色を基調とした服がお似合いです」

「魔法使いのローブは威厳の証、きっとローブを羽織るのがいいと思いますよ」

「左腕に身に着けてる腕輪はアクセントになりますね、他にもアクセントになりそうなのはネックレス、ループタイどちらがいいかしら?」

 なんか、若い女性たちは凄く楽しそうに服を選んでくれてるんだが、とりあえず言われたとおりにすればいいのかな? 新調が無事終わり、俺が村の人の前に現れると、拍手をしながら迎えられた。


「おぉ! ガイ様、黄色のローブとは中々お似合いじゃないか!」

「ループタイで渋さを演出しつつ仕上げるとは、さすがはガイ様ですな」

「そうかな? まぁ、なんでもいいけど。えぇっとこれ服の代金」

 俺は金貨を1枚渡そうとした。しかし、長老たちは受け取ろうとしなかった。


「いえいえ、これは私達のお気持ちです。ぜひ受け取ってください」

「いや、でも」

「いいんだよガイ様! ありがたく受け取ってくれ、感謝してもしきれないぐらいアンタには恩があるんだから! だって村を救ってくれたんだ、そうだろ、みんな!」

 う~ん、ここまでされると、なんか逆に申し訳ないな。というか、俺……ひっそりと暮らしたいだけなんだけど―――

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