世界の理を知る

 ガタガタガタガタ―――


 俺を乗せた台車は音をたて、激しく揺れながら次なる場所へ車輪を回す。道中で掴める場所が欲しいと思って、台車に手すりを取り付けた。見た目は台車というより、不格好なトロッコみたいだ、台車に変わりはないけど。


「地平線しか続いてないな……」

 道は農道のようにデコボコとしていて、周りは草むらだらけ。たまに生えてる少し大きめの木が点々とあるぐらいで時間を思わず忘れてしまうぐらいのどかな世界だな。台車に乗って1時間ほどが経過している……そろそろ何か見えてくると嬉しんだけど……。


「ん? あれは看板か?」

 木の看板には『左 ポートミル港 右 ククリ村』と書かれている。港と村か、まぁ、定石なら港なんだろうが、俺の魔法は土だから水系のモンスターとか出たら相性悪そうだな、ポートミル港に行くにはもう少しこの世界を知ってからだな。


 俺はククリ村に向かうことに決めた―――


 ―――ククリ村はのどかで平和な村なようだ。道には出店が立ち並び、ポートミル港が近いからか新鮮な魚を串焼きにした食べ物や、一風変わった食材を使った料理が並んでいる。香辛料の匂いが鼻を刺激してさらに腹が減ってきたぞ。子供は外ではしゃいでいるし、老人は家の外でゆったりとくつろいでいる。


「まずは腹ごしらえだな、すいませんこの魚の串焼き1つもらっていいですか?」

「はい、わかりました」

「え~っと、とりあえずこれで足ります?」

 俺が金貨を1枚差し出すと、若い女性は目をギョッと見開いた。え? まずかったかな。すると興奮気味に話し始めた。


「こ、こんなにいいんですか? この串焼きは銅貨10枚で大丈夫なんですけど……」

「え? あぁ、今はこれしか持ってなくて……」

 どうやら金貨は相当大金なようだな。まぁ、元々俺のお金じゃないからどうでもいいんだけど。


「ですが、お釣りが渡せないんです。今は銀貨が8枚と銅貨が100とちょっとしかなくて……残りのお金を渡せないです、どうしましょうか?」

 なるほど、困ったな。別にお釣りはいりませんと言えばそれまで何だが、そういうわけにもいかないだろうし……。そうだ!


「わかりました、そしたら教えて欲しいことがあるんですけど、いくつか教えてもらっていいですか?」

「教えて欲しいこと……ですか?」―――


 ―――俺は若い女性に転生者であることを明かして、この世界の仕組みをいくつか教えてもらった。この世界では転生者は珍しくないのか、すんなりと受け入れられた。


 そして、金貨を1枚全部渡すとなったとたん、この村の人達は途端に俺の周りに群がり知っていることを次々に話始めた。どうやら金貨はお金としての価値がとんでもないようだ、それを10枚も落とすなんて、あの3人今頃悔しがっているだろうな。


 まずこの世界では魔法を使える者はかなり優遇されているということ、かつてこの世界を大魔王の魔の手から救ったのも4人の偉大な魔法使いのおかげらしい。


 だが、土の魔法を扱う者は奴隷のような扱いを受けているようだ。というのも土の魔法は魔力を大量に消費するため戦闘には向いていないのと、物を創ることに長けているため、防御や建築でしか真価を発揮されないとされているためらしい。事実、この世界では土属性のほとんどが社会的地位が圧倒的に低い職にしかつけないんだそうだ。


 そして属性には相性がやはりあるようで、火→風→土→水の順に得手不得手があるらしい、それに4つの属性の他に光と闇の属性や、複数の属性を併せ持つ属性も確認されているらしいが非常に稀なケースである事と、実際に見た者はほとんどいないことから噂程度でしかないらしい。


 魔王についても一応聞いておいた。今はどこかに封印され眠っているとされており、魔王を復活させようと各地でカルト教団が暴動を起こしているらしい。カルト教団はそのほとんどが謎で、詳しくは村人も分からなかったようだ。唯一わかっているのはカルト教団の組織名は『円卓の魔教団』そして、6人の魔法使いがいるということ。


 まぁ、俺が国王から迫害された理由は分かった、だからといって許すつもりはないけど。魔王の復活阻止も3人に任せればいいし、腹ごしらえも終わって情報収集もあらかた済んだ、俺はもう少しこの無限の腕輪と、魔法で何ができるかを調べるとするか……。だけどちょっと気になることがあるんだよな。


「あの、この村には男性がいないですけど、港に仕事とかですか?」

 ククリ村には若い男性や中年の男性がいない、いるのは女性と子供と老人のみ。余計な事には首を突っ込むつもりもなかったが色々と教えてもらったし、それにやっぱり気になるよな。


「実は、ククリ村のすぐ近くにある森でモンスターが大量に現れて、家畜や作物を荒らされるんです。見かねた男たちは武器を取って森へ、ですがもう何日も帰ってこなくて」

 そういって若い女性は男たちを心配していた。あぁ~、これは聞いたから助けに行かないといけないやつだな。やっぱり聞くんじゃなかった―――

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