Day27 渡し守

 国境を流れる大河川はクルーザーやウォーターバイクが水飛沫を跳ねさせて騒がしいが、この河幅が広い運河は昔ながらのオールを使った手漕ぎ船で行き来をする。もちろん観光目当てで訪れる人も多いが、都会の喧噪から離れて静かな時間を過ごすにはもってこいの場所だ。今日は気分転換に川下りをしに運河に訪れる。ジェフもアンバーも気に入ったようで、船の上で景色を楽しんでいる。

「ここは心地が良いな」

「そうだろうとも。俺の船は貨物を運ぶことの方が多いが、観光客専門の人手が足りねーときゃ、俺も手伝ってんのさ」

 ジェフは威勢の良い渡し守を見ていた。渡し守もジェフを見て何かを察したのか、それを拒否した。

「俺の船は俺の一部だ。誰にも渡さねえよ」

「この仕事は楽しいか?」

「おうよ。昔の俺はやんちゃしていたガキだったが、おやっさんに拾って貰ってからは心を入れ替えて、この仕事をやっているさ」

「ふふ。まるでこの子と同じね」

 私はアンバーと渡し守を交互に見て会話を楽しむ。

「お。おめーも拾われたのか。ご主人様は大事にしろよ」

「みゃー」

 返事をするようにアンバーは鳴いた。

 たった三十分という短い時間だったが、あの渡し守と仲良くなれたような気がした。

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