第13話 執行するための討伐

13.執行するための討伐


 ここ数日でいろいろな盗賊団を駆除したけど、

 今日の対象は、この辺だと一番大きな規模の犯罪者集団だ。


 人数の多さも問題だが、やっていることはとにかく極悪で

 旅の商隊を襲い金品を奪うだけでなく皆殺しにし、

「焼いた肉が食べたい」という理由で牛舎を焼き尽くす。

 のどかに羊を飼い移動する遊牧民のテントを襲撃し

 そのわずかな資産を奪い尽くし、女・子供は奴隷として売りさばいた。


 これまで再三、皇国はパルブス国に対しその捕縛を要求してきたが、

 のらりくらりと回答を避け、皇国が代わりに隊を派遣しようとすれば

 もうすぐ捕まえるから待て、を繰り返すばかりだった。


 どのみち、パルブス国警備が捕らえたとしても

 簡易な裁判を経て、即死刑になることは間違いない奴らだ。

 そして皇国からはとっくに彼らに対する判決が確定し、

 刑の執行も指示されている。


 ***********************


 私たち三人は、彼らがアジトにしている古い炭鉱をやっと見つけた。

 険しい山を切り崩して出来ており、横穴が多く、

 見つかりにくくて逃げやすい場所だ。


 私とリベリアを残し、クルティラが先を行く。

 気を付けて、なんて言うのは、

 彼女のプライドを傷つけるかもしれないので黙って見送る。


 そしてしばらく経ったころ、戻ってきてつぶやく。

「異常無し」


 それを聞き、私たちは、すぐに財宝が山積みの部屋を見つけた。

 ここがおそらく、盗賊の頭の部屋だろう。

 彼らは仲間すら信用してないため、

 盗ったものを全て自分の近くに置いておくのだ。

 私たちはさっそく、そこで目当てのものを探した。

 必ずあるはず。


 案の定、汚い木箱の中に、たまった手紙を発見することができた。

 それは全て、パルブス国 公爵家からの手紙。

 つまりいくらかのお金や宝を収めることで、

 国からわざと見逃してもらっていた、というだ。


 さすがに公印はないが、

 ”この間、皇国の商隊を襲った時に得た金はまだか”

 ”早くこちらの取り分を公爵家別荘に持ってこい”とあり、

 さらには皇国からの逮捕要求を自分たちが無視してあげていることを

 恩着せがましく主張する文面を読みながら、

 私たちは文字通り、呆れてものが言えずにいた。


 すると後ろから声がする。

「ここはお嬢さんがピクニックに来るようなところじゃねえんだけどなあ」

 ひひひひと笑いながら、三人の男が入ってくる。

「でもありがてえなあ、おい。すぐに高値で売れそうな女じゃねえか」

 こいつらが、世に悪名高いタルパ兄弟か。

 兄弟と言っても血はつながっておらず、

 長いこと三人で組み悪事を重ねたところ、そう呼ばれるようになっただけだ。


「一応選ばせてあげる。捕まるのと死刑、どっちが良い?」

 私の言葉に、三人は大笑いした。良かった、死刑を選んでくれて。

「んじゃ、いつもどおり大人しくさせておくか」

 右の男がナイフを構える。こいつは投げナイフで有名な男だ。

 今までの手口だと、捕まえた女が逃げないように足に怪我を負わせ、

 売る寸前に治癒して商品にするらしい。とことんゲスなやつらだ。


「そらっ! 避けてみなっ!」

 と全身で投げてくる。確かになかなかの速さにコントロールだ。

 でも全然駄目だね。


 まずナイフ投げの競技じゃあるまいし、

 投げた後のモーションのまま固まっているのはいただけない。

 もしかして、自分の技術が何点だったか、採点を待っているのか?

 なら、0点だよ。


 ふと盗賊は、自分が投げたはずのナイフが、

 自分の横の柱に刺さっていることに気が付いて呆然とする。

「何やってんだてめえ!」

 一番上と思われる男が怒鳴るが、三番目の、比較的若い男が首を振る。

「ちがう! あの女が打ち返したんだよアニキ!」

 はい、その通り。

 君は弓を背負っているだけあって、目が良いのかな?


 クルティラは男が投げたナイフを、手にもつ金属の扇子で瞬時で打ち返した。

 そしてその後の立ち姿にもご注目。反撃後の態勢が違います。

 すぐに戦闘が続けられるよう、右手には扇子を構え、

 左手に新しくナイフを構えているのがわかりますね?


 それに打ち返したナイフも良くご覧ください。

 根元の柄までめり込んでいるでしょ? もう抜けないくらいに。

 普通は武器を敵の手元に返すなんてことは絶対にしないはず。

 それをする時は、二度と使えないようにしてあるか、自信があるかのどちらか。

 そしてクルティラの場合、その両方だ。


 特徴ある金属の扇子を見て、一番上の盗賊が目を見開く。

「まさか?! 冥府に招く貴婦人インフェルドミナ!」

 おお、知っていたか。さすが皇国にまで目を付けられる悪党だ。


「なんで、皇国の暗殺者集団が、こんなとこにいるんだよ」

 それを聞いてクルティラが無表情のまま否定する。

「いえ、私は暗殺者ではありません」

 盗賊たちはクルティラの言葉に驚き、横に立つリベリアの神官衣を見て、

 そうか、と合点がいったようにニヤリと笑う。

「そうだよなあ、神様のお使いと一緒にいるんだよなあ。

 ヒトゴロシなんてできねえよな、まったく」


 そういってじりじりと近づきながら、大声を出す。

「おい! 全員出てこい! 獲物が飛び込んできたぞ!」

 しかし、なんの返事もない。

「まったくあいつら、何やってんだ? おい、見てこい」


 若い男が部屋を走り出て、そしてどこかの部屋で悲鳴をあげている。

 何事かと驚く盗賊たちに、戻ってきた彼が叫ぶ。

「全員死んじまってる! 殺されてんだよ! アニキ!」

 三人は顔を見合わせた後、クルティラの方を向く。

「い、いつの間に」

 その答えは、先にクルティラが砦に向かった直後だ。

 全てつつがなく完了したので”異常なし”だったのだ。

 なんでここまで、誰にも会わずに来れたと思ってたんだ?


 ガタガタ震えながら、盗賊の頭が尋ねる。

「おおおお前、ああ暗殺者じゃないって……」

 クルティラが静かに答える。

「ええ。者ではないから、堂々とれます」

 そして彼女が動いたのは一瞬だった。

 彼らはおそらく、自分が死んだことさえ気が付かないほどに。


 皇国の出した判決は死刑。それが今、執行されたのだ。


 *****************


 リベリアの神に祈りをささげる詠唱が砦に響く。

 死者の魂を送っているのだ。たぶん、地獄に、だけど。


 そんな中、伝書に使われている白シギがやってきた。

 メイナ監査官からだ。何かあったんだ!


 そこに書かれていたのは、信じられない国の暴挙だった。

「城下にある魔除けや護符は、パルブス王家がすべて回収する」

「王族や貴族の屋敷にある、呪霊がついた家具や家財を市街に破棄する」

 というものだった。その猶予はたったの2日間。


「もっと大きな盗賊を退治しないとダメか」

 私はため息をついた。

 魔除けも護符も、私が作って配ったもので、効果抜群だ。

 小さな子ども向けのものでもあるのに。なんて酷いことを。


 これは間違いなく、私をあぶり出すための作戦だ。

 王家や貴族の現状は、リベリアたちや皇国調査団からの報告で聞いている。

 パルブス国は再び私を働かせるつもりらしい。王家と貴族のためだけに。

 彼らに会い、もし城に戻ることを断った場合、彼らは国民を人質にとるだろう。


 もちろん戻るのも働くのもお断りだ。

 しかし身を守るものが無くなった状態で、

 禍々しいものが市街地にあふれるのは、彼らにとって危険すぎる。


 私は一考し、向こうから来た手紙の裏に返事を書く。

 ”大丈夫、要求には大人しく従ってください。

 穢れた品は、公園へ置きたいと申告してください"

 その内容を記し、白シギに持たせた。


 そして、指笛を吹く。

 しばしの間をおいてやってきた大鳥は、

 豪奢な足環を付けた、青く美しい神鳥ガルーディア。

 この全土をわずか数時間で飛ぶことができる奇跡の鳥だ。


 私は足環に伝言を記録する。そして、空に向かって飛ばす。

「お願い。皇太子のもとに急いで」


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