【本編完結】異世界でメンタル壊れた魔女でしたけど、帰還後はかわいい女の子たちと幸せになりますね。

かおぴこ

第一章 日本帰還編

プロローグ

 今日は冷えるねぇなんて思って窓の外を見ると雪がチラついていた。もうそんな時期かと年々早くなる季節の流れに改めて自分の歳を感じる。


「あ、お母さん! 寝てなきゃダメだよ」


 部屋に入ってくるなり腰に手を当てて呆れたように諭してくるのは、昨年嫁にいったばかりの一人娘だ。


「そんな重病人扱いしなくても大丈夫よ。今日は気分がいいから片付けを進めたいんだけど……。」


「だーめ! 風邪だって怖いんだよ? 家のことは私がするからお母さんはゆっくり休んで早く治してね。」


「伝染しても悪いから、こんな頻繁に来なくてもいいのに……ケホッ」


「ほら! また咳してる。お薬は飲んだの?」


「飲んだ飲んだ。トールさんのお薬はよく効くよ。あんたからもお礼を言っておいてね。」


「その割には長引いてるけど気がするけど……あの人の薬はただの風邪なんかすぐに治しちゃうのに。ねぇお母さん、やっぱり一度うちに来てきちんと診てもらってよ。一月近くも微熱が続くって良くない病気なんじゃないかな?」


「ただの風邪だよ。歳をとると治りが遅くなるんだって、若いあなたたちと違ってね。……ケホッ」


「それならそれでいいから! 来たくないなら往診でここに来てもらうからね!」


「トールさんはただでさえ忙しいのに、私のためにこんなところまでわざわざ来てもらうのは申し訳ないって。」


「そう思うなら観念してうちに来なさい、今日帰ったら話しておくからね。明日にでも診てもらって!」


「はぁ……仕方ないね、じゃあ明日お邪魔するよ。」


「了解。じゃあ今日はこのまま寝ててね。」


 そういって満足そうに頷いた娘は私が脱ぎ散らかした服やら下着やらを持って部屋を出て行く。こんな寒い日に外にある洗い場で洗濯をしてくれるのだろう、我が娘ながら出来た子である。その後も暖かいスープを作って、お薬しっかり飲むんだよと念押しして帰って行った。


 娘のエリーは今年で20歳になる。去年、5歳年上の幼馴染のトールと結婚した。トール家は医師の家系で、彼はまだ若いものの父譲りの腕のよい医者と街でも評判である。そんな家に嫁いでうまいことやっていけるのかと心配したが、生活魔術を活かして主に家事やら事務作業やらで役に立ちつつうまくやっているらしい。

 最近は体調を崩した私を心配して3日と開けずに街外れのこの家に看病に来てくれているが、それを許して貰えるぐらいには良好な関係をあちらの家族を築けているのだろう。


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「さて、今のうちに整理を進めておかない と……。」


 エリーが帰ってしばらくたち、私は起き上がって寝室をあとにする。探知魔術であの子を追跡して家に帰るのを確認もできるのだが、それをするとあとで「私が帰るの確認して、何をやっていたの?」と追求されてしまう。私の探知魔術を感知できる魔術師なんて世界中探してもほとんどいないと思うのに……さすが我が娘。お母さんは鼻が高いよ。

 さて、娘の目を盗んでまで私が何を整理しているのかといえば終活である。多くはないけれど財産をわかりやすくリストにして、無駄に多い魔道具などは使い方をメモしたり持て余すようならと引き取ってくれそうな馴染みの骨董店への紹介状まで書いたりと、こんな一人暮らしでも意外とやる事が多くて辟易する。

 あとは置き手紙だね。一応火葬を希望、遺骨は夫と同じ場所に埋葬して欲しいと希望を書いておく。ただしこの世界は火葬する習慣がないので、トールさんやお義父様お義母様が難色を示すなら無理しなくてイイよ、と。


 なぜ私がこんな事をしているかと言えば、ズバリ死期を悟っているからである。かつて勇者・聖女・聖騎士と共にこの世界に召喚され、仲間たちとの苦難の戦いの末に魔王を倒した「魔女」こと私。魔王を倒したら元の世界に帰れるかと思っていたらそんな事もなくこの世界にとどまることン十年、結婚して娘が産まれて、その娘の花嫁姿を見ることまで出来てしまった。

 ちなみに夫は聖騎士として共に魔王を討ち倒した人なのだが、残念ながら15年以上前にこの世を去った。あの世で会ったらエリーの花嫁姿が世界一美しかった事を教えてあげよう。きっと見られなかったことを悔しがるぞ、フフフ。


 そんな私が死期を悟っている理由は、いま患っているこの病である。エリーにはただの風邪と言ったもののそうではない確信が私にはあった。およそ一月ほど軽い咳と微熱が続き、そしてある日眠るように息を引き取るのであろう。実は召喚された私たちは全員この病にかかった。私以外の3人はすでに同じ病で帰らぬ人となっている。最初に逝ったのは、聖女と当時恋仲であった勇者だった。魔王を倒した3年後、世界中に残った魔物の残党を狩る旅がやっと終わり王都に腰を落ち着けてさあ聖女と結婚かというタイミングでの急逝であった。

 恋人を亡くした聖女はひどく落ち込み、一時期は塞ぎ込んでしまったものの、私と聖騎士、それ以上にこの世界の多くの人たちの支えもあり徐々に明るさを取り戻してくれた。数年後、私と聖騎士の結婚は心から祝福してくれたしその後産まれたエリーのことも本当の娘のように可愛がってくれた。

 今度こそ穏やかな日々を送れるかと思いきや、次に倒れたのは聖騎士だった。勇者の時とそっくり同じ症状で同じようにこの世を去った。もちろん私も聖女も手をこまねいていたわけではない。傷だけでなく病に対しても最高クラスの回復術を持つ聖女、魔術と呪術に適正をもち大抵の呪いなら解呪できる魔女の私、そんな二人が精一杯の治療をしても抗えなかった。

 これはただの病ではない。その後聖女と私はこの病についての情報を必死になって探した。死ぬのが怖かったし何より幼い娘を遺して逝くのが嫌だったから。王立図書館の禁書庫から、街の古書店の埃被った論文、はてはこの世界の母親が子供に聞かせる御伽噺まで、どこかに何かヒントはないものかと。

 数年かかって聖女が見つけた恐らくの答え。教会の書庫に保管されていた一冊の古びた本に書かれた物語。それは世界を闇に染めた悪魔を天からの使者が打ち倒し再び光を取り戻すというありふれたものであったが、最後に使者はまるで眠るように息を引き取り再び天に帰るというものであった。世界を闇を染めた悪魔は魔王、天からの使者は召喚者?だとすれば過去に私たちのように召喚されて魔王を打ち倒したものがいたのでは?眠るように息を引き取るという描写は勇者と聖騎士の最期に重なる。おそらく召喚者は役割を果たす、つまり魔王を倒したあといずれこの病にかかり抗うことなくこの世界を去るのだろうと推測した。確かに私たちが身に付けた力は魔王亡きこの世界には過剰なものであり、そんな力を持つ私たちをこの世界から排除する機能としてこの病が組み込まれているのであるとすれば、なるほど理にかなったシステムである。

 答え合わせこそできないがそう結論づけた私と聖女はやっぱりこの異世界召喚はろくなものじゃなかったねと笑い合った。

 その後、聖女が同じ病に罹りこの世を去ったのが今から5年前。そして今、ついに私の番が来たというわけだ。

 

 エリーはもう1人の母であった聖女が亡くなった時と同じ病に私が罹っていることに薄々気付いているのだろう。私としては無事に娘を送り出すことが出来てこの世界に未練はまぁ、無いとは言わないけどある程度気持ちに整理はついているが、遺される方はたまらんよなぁとも思う。

 そんなわけでせめて苦労はかけるまいと、終活に勤しんでいるのである。

 

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「ここは……?」


 目が覚めたら知らない部屋にいた。昨日の夜は魔導書の整理をしており、そのうち一冊をうっかり読み始めてしまったら止まらなくなって……までは覚えている。窓の外はすでに明るいのできっと本を読みながら寝落ちしたのだろう、よくあることである。


「でも寝室に行った記憶はないんだよなぁ……というかここどこだろ?」


 部屋を見回すとそこはいつもの寝室ではなく、勉強机にクローゼット、ふかふかのベッドにファンシーな柄の布団……。いずれもかすかに記憶にあった。


「ここ、私の部屋……? 召喚される前の……?」


 間違いない、ここは異世界に召喚される前の私の部屋だ。


「え、じゃあ戻ってきたってこと……? 今さら……?」


 魔王を倒したら元の世界に帰れると思い、それが叶わなかった。私たちを召喚した王国の宮廷魔道士たちも「伝承によれば……」とか言うだけで具体的に帰る方法など知らず、途方に暮れた。色々試して、それでも結局帰る方法なんてわからずにあちらで生きていく覚悟をした。


 だというのに、何の前触れもなく、私は帰ってきた。

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