咖喱電影戀噺 -カレーでんえいこいばなし-(カレー沼男・完全版)

笹 慎

なっちゃんとユウキくん

Chapter.00 カレーか、映画か、それが問題だ!

 ノートパソコンで動画投稿サイトを開き、登録しているチャンネルの一つをクリックする。とある高校の動画制作や配信をする同好会のチャンネル。


『青春十八きっぷで行くカレー男子の大冒険』


 そうタイトルのついたシリーズの最新作を私は再生する。


 そして、パソコンのディスプレイには、家庭科実習室の机の前に座ったピンクの髪色をした雑誌のファッションモデルか、アイドルでもできそうなほど甘い顔立ちの男子高校生が映し出された。


「こんにちは~。カレー男子のユーキです。今回は鳥取に行ってきました! もはや青春十八きっぷ使ってないけど。はは」


 このイケメン男子高校生がただ旅行してご当地カレーレトルトを買ってきて試食するだけの動画シリーズは、他校に通っている私にまで届くほど女子高生の間で人気だった。


 ぼんやりと、別に気の利いたことを言うわけでもない彼の食レポを眺める。


 彼がカレーを食べ終わると、そこでシーンが切り替わり、カレー皿などはキレイに片付けられ動画の最初同様に改まった様子の正面カットになった。


「……はい。ここまでご視聴ありがとうございました!

 ボクは高校三年生なので、次回の動画投稿でラストになります。本当は本場インドとか行ってみたかったんですけど、無理でした。あはは。今回の鳥取までの交通費も高かったし!

 というわけで、ラストはボクが一番好きなカレーの街、神保町散策にしたいと思いますので、最後までよろしくお願いしますね!」


 動画の再生が終わると、似たようなオススメ動画が表示されたが、私はそれらを見ずにブラウザを閉じた。



 ピンポーン。タイミングよく玄関のチャイムが鳴り、インターフォンのカメラ越しに訪問者を確認して胸が高まる。でも、絶対に相手にはそのことをバレたくなくて、何度も深呼吸をしてからドアを開け、訪問者の顔を見るなり仏頂面をする。


 二週間ぶりにご当地レトルトカレーを持って我が家に姿を見せた幼馴染の髪の色は、動画で見たピンク色から落ち着いたダークブラウンに変わっていた。


「今回はまた一段と短かったね」


 嫌味を込めて私はそう言ったが、相手は特に気にも留めてないようで、勝手に靴を脱いで家に上がってくる。


「やっぱ、なっちゃんとカレー食べる方が楽しいんだよね~」


 勝手知ったると言わんばかりの動作で、我が家のキッチンに入り冷凍庫から冷凍ご飯を取り出すと奴はレンジで温め始めた。


「なっちゃんは、神奈川県の海軍カレーと鳥取県の妖怪ファミリーカレーどっちがいい?」


 私は溜め息をついて、ネーミングからどんなカレーかさっぱりわからない「妖怪ファミリーカレー」を選んだ。

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