第7話
①
「ただいま」
明かりの無い廊下を見据えて、そうは言ってみるものの、当然のことながら返事は無い。
私はローファーを脱いで綺麗にかかとを揃えた。
ローファーに並ぶ靴は、、、無い。
誰も、、、いない。
分かってる。
いつものことだ。
けれど、、、、、、
「今日は楽しかったなぁ」
そう独り言ちる。
今日は色々あった。もうきっと会えないだろうなと思ってた子たちに偶然会って、同じ学校だと知って。そして色々話して、一見人見知りが強そうで小動物系の女の子が実はボクっ娘で私と似たことをしてることに驚いて。そして、、飛鳥ちゃんとデートをした。
本当に濃い一日だったと思う。
これまでの私の薄っぺらな人生と、今日とを比べたら、もしかしたら今日の方がよっぽど充実していたかもしれない。
これまでの私は、本当に何も無かった。
穴だらけの思い出の器には、何も詰まっていなかった。漏れ出ることすらもさせてはくれない。
そんな穴だらけの器に、私は可愛い女の子を犯すことで得られる快感を詰め込んだ。無理やりに。
本当は、もっと信頼し合える友達だったり、それこそ親にだったり、愛情を貰いたかった。
けれど、私の親は私を見てくれなくて。
親の愛を受けてこなかった私もいつしか拗れていって。小さい頃は友人関係を一つ作るのにも苦労があった。
そんな私は中学に入って、自分の容姿が他よりも優れていることを自覚し始めた。多分、私の女遊びはここから始まったと言ってもいい。
初めては、名前も知らない大学生の女性だった。その人に私は処女を奪われて、その代わりに女の子を口説く話術と行為のテクニックを教わった。
今思い返してみれば、あの女性が私の性格の3分の1は形作っているのかも。
「と、いけないいけない」
さっきまで飛鳥ちゃんとデートをして、すっごく楽しかったのに。
いつの間にか考え込んでしまって、しかも暗い方へと思考を加速させていた。一人になると、私の悪い癖だ。
「でも、流石にあの時はイラっとしたなぁ」
目白 綾と二人で話したあの時。
目白は、あたかも自分一人だけが親を早くに亡くして寂しくて可哀想な思いをしてる、みたいな雰囲気出してたけどさ。
そんなの、私もなんだよ。
なんだよ、それで私に対するあの言い方は。
目白には、それでもまだ幼馴染とかいうズルい存在がいたから良いじゃんか。
私なんて、ずっと本当に一人ぼっちだ。
だからこそ、今日は本気で心から満たされたような感覚だった。
「飛鳥ちゃん………」
誰にも聞かれない空間で、その名前を呟く。
私の立てた計画は上手くいかなかったけど、飛鳥ちゃんに握って貰った手の感触、今でも鮮明に思い出せる。
思い出すと、やっぱりドキドキする。
その後もショッピングデートをした。
今までは私が貢がれる側だったから、誰かに真剣に考えたプレゼントをあげるなんて経験が今まで無くって。
だけど今日は一生懸命、飛鳥ちゃんのために選んだ物をプレゼントした。
飛鳥ちゃんは風紀委員もやっていて、真面目なタイプだからピアスの穴なんて開けてないと思ったし、開けるつもりも無いと思ったから。
プレゼントは気に入ってくれたみたいで、とっても喜んでくれた。
飛鳥ちゃんが笑っただけで、私まで釣られて笑顔になってしまう。
これが、 ''恋'' なのかな?
まだ分からないや。だけど一つだけ言えることは、少なからず私は飛鳥ちゃんのことを特別視している。
それだけは間違い無い。
ピロン♪
スマホが鳴る。
画面を見ると、飛鳥ちゃんから写真が送られてきていた。
すぐさま確認してみると、、、
「タイムリーだ」
飛鳥ちゃんが右耳に私のあげたイヤリングをつけて自撮りした写真だった。
『付けてみた!どうですか?このイヤリング、ほんっとに可愛いですよね!!気に入りました。ありがとうございます!』
正直、イヤリングよりも飛鳥ちゃんが可愛いくて、写真を3枚も保存してしまったのは、ここだけの話である。
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