8話 組織最強VS幹部最強

 久しぶりにノーフェイスの本拠地に足を運んだ翌日。

俺は再び本拠地へと足を運んだ。

 入口付近にソルミナの姿が見えたため、今日の出迎えは彼女だと理解する。

 

「あれ?ソルミナが出迎えてくれるとは珍しい」

「ほ、本当ならライチが出迎える予定だったんだけど、用事ができたみたいで私が任されたの。別に嬉しくなんてないんだからね?」


 喉元まで出かけた「ツンデレか」というツッコミを我慢する。


「そうなんだ、んーライチがちょうど用事ね…」


 俺の少し迷うような様子を見たソルミナが悲しそうに訊いてきた。


「もしかして、私たちには任せられないことなの?」

「んー、いや、別にソルミナたちじゃ任せられないってわけじゃないんだ。せっかく幹部が決まったから、その幹部全員である場所に行きたいなーって思って」

「ある場所?」

「うん、えっと確か…ラダムス王国だっけ?」

「ラダムス王国…」


 ソルミナは何かを思いついたのか「すこし待ってて」と言い残すとどこかへ行ってしまった。

 俺が今回、幹部全員でラダムス王国に向かおうとしているのには理由がある。

 それは、俺がどうしても欲しい武器がその王国にあるからだ。

 その武器の存在を知っているのは、聖都のお偉いさん方か、ラダムス王国の王族ぐらいだろう。

 で、その武器の回収のために幹部たちに手伝ってもらおうと思ったんだけど、ソルミナがどこかへ行ってしまった。一体、どこに行ったのやら…。

 数秒後、ソルミナが走って戻ってきた。


「あと1時間ほどでライチの用事が終わるそうよ」

「おっけー、じゃあ俺も一回家に戻ってるわ。1時間10分後ぐらいにまた来る」


 そう言って、俺は自宅へ戻った。


――ライチ視点――


 用事が終わり、ノーフェイス本拠地に戻った。

 戻ると同時にソルミナからレイストが来てたことなどを聞いた。


「わかったわ。ソルミナ、今すぐ幹部全員を集めなさい」

「はい」


 そして5分後、会議室に幹部が集合する。


「で、ソルミナ。レイストはなんて?」

「えっと、ラダムス王国へ幹部全員を連れて行くって言ってたわ」

「理由は聞いた?」

「いいえ…」


 私は考える。なぜ、レイストがラダムス王国へ幹部全員を連れて行こうとしているのかを。

 

(もしかして、王国を潰そうとしている?いや、でもそれに見合うメリットが何もない…じゃあ、何をするために?)

 

 必死に考えるが、それでも答えが出てこない。

 これは本人に聞くしかないだろう。そう思った瞬間、ホライがぽつりとつぶやく。


「もしかして、あの伝説の武器…」


 その声を私は聞き逃さなかった。


「ホライ?あの伝説の武器って何?」

「え、あー、それはわからない」

「わからない?」

「ラダムス王国にある伝説の武器、それは一般の人間には公開されてないの。だから、どんな形状をした武器かもわからない。それに武器っていうのも噂でしか無いから…」


 確かに、レイストなら興味を持っていてもおかしくない。と、なると…。


「私たちはその伝説の武器(?)を回収する手伝いをすればいいってことね」


 ライチを含めた幹部全員が、笑みを浮かべる。

 幹部に与えられた初任務。彼、彼女たちがレイストに、自身の活躍を示すには絶好の機会だった。


――レイスト視点――


 ノーフェイス本拠地から離れて1時間10分後、俺は再び拠点の前に来ていた。

 さっきはソルミナが出迎えてくれたが、今回はライチが出迎えてくれた。


「ああ、ライチ帰ってきたのか」

「ええ、少し大事な用事だったから外せなかったの。他の幹部はすでに集まっているわ。早速話し合いを始めましょう」


 ライチと共に会議室へと向かった。


 会議室には幹部全員が座って、雑談などをしていた。

 俺の存在に気付いたリルムと、ニィラがこちらへ寄ってきた。


「あ、リーダー」

「レイスト様が来た」


 今更だが、組織として行動している最中に本名というのはどうなのだろうか?

 今後、活動範囲を広げていくだろうこの組織で、本名で呼ばれてたらすぐに俺の個人情報なんて特定されるだろう。


(いっそのこと、今日から偽名を使おう)


 俺は幹部たちの前に立ち、こう言った。


「俺が組織のリーダーとして活動しているときは、俺をレイストではなく、ゼロと呼べ」


 レイストのレイから0を連想したのもあるが、組織の原点という意味でもゼロにした。実に安直だ。

 

「わかったわ、ゼロ。あなたたちも組織のリーダーとして活動している間の彼のことは、ゼロと言うのよ」


 幹部たちは頷く。

 ひとまずこれで名前の件は片付いたな。で、問題は武器の方だ。


「ライチ。ラダムス王国の武器の件はどこまで話している?」

「目的までは話していますが、作戦の内容までは」

「うん、わかった。じゃあ、これから簡単に作戦の内容を言おう」


 幹部全員が、真剣に俺の方を見てくる。


(なんかみんなから物凄いやる気を感じるけど、何かあったのか?)


 そんなことを思いながら、作戦の内容を話す。


「俺たちはラダムス王国に侵入する。そして、侵入後二手に分かれる。一つは俺、もう一つはライチが指揮を執る。俺のほうは、ラダムス王国の王城に侵入し、武器を回収する。ライチの方は、王都周辺で暴れて注意を引き付ける。っとそんな感じだ。何か質問がある人はいるか?」


 質問はないかと幹部たちに訊く。

 すると、ユーリが手を挙げた。


「はい、ユーリくん」

「あのー、王都周辺で暴れるって、具体的にはどのぐらいで暴れればいいですか?」

「ふむ、まあ5割ぐらいの力で頼む。それと、できるだけ人は殺すな。もし、本当に身の危険を感じた場合のみ殺しを許可する」

「理解しました」


 ユーリが座る。

 正直、できるだけ人を殺すなという点についての質問をされると思ったのだが、予想が外れたらしい。

 

「他に質問は?」

「はい」


 ホライが挙手した。

 その姿に珍しさを感じる。


「ホライが質問をする姿久しぶりに見たな。それで?」

「はい。ゼロ様は武器だと確信しているのですか?噂ですとはっきりしていなかったので」

「あー、それね。探知魔法でラダムス王国を調べたから確定だ」

「武器…」


 ホライの質問タイムが終わったので、他のメンバーを見渡す。


「他に質問のある人は……うん、いないな。作戦の実行は今日の夜だ。各自、準備しておけよ」


 そう言って俺は会議室を後にし、拠点にある試合場へ足を運ぶ。

 一仕事する前の準備運動といったところだ。

 試合場へ到着し、腰から刀を抜こうとした瞬間、背後に気配を感じた。

 

「ライチか。どうした?質問があったのか?」

「いいや、あなたが試合場に足を運んでいたから、気になってついてきた」

「ふーん、で?要件は?」

「お願いがあるの」

「お願い?ライチが俺にそんなこと言うなんて珍しい。いいよ、俺の叶えられる範囲ならば」


 そう言うとライチは嬉しそうに笑い、俺に神晶樹の刀の切先を向けてきた。


「私と久しぶりに勝負してみない?」

「……ライチと勝負か。いいね面白そう」


 そう言った瞬間、ライチが刀を振る。

 もちろん、開始の合図があったわけではない。かといって卑怯とも言えない。

 実践では敵は待ってくれないし、思い通りに動いてくれない。そう教えここまで育てたのは俺だから。

 刀が俺の頬を掠めそうになった時、最小限の動作で回避し、ライチから距離をとる。が、ライチもすぐさま俺との距離を詰める。

 

(読まれてたか)


 俺の体目掛けて振り下ろされる刀を、素手で受け流す。

 それを見たライチが攻撃を中断し、俺から距離をとった。


「いきなりすぎてびっくりした」

「できれば今ので一撃ぐらい食らってほしかったわ」

「不意打ちもするし、怖いことも言うなぁ」

「戦場では不意打ちも卑怯じゃないって教えてくれたのはあなたよ」


 目の前にいたライチの姿が一瞬で消える。

 そして、気づけば背後にいた。

 

(速くなったな)


 背後から振られた刀を見ることなく避け、後ろ回し蹴りからの後ろ蹴りの二連撃をお見舞いする。


「く…」


 一撃目の後ろ回し蹴りはライチがギリギリで反応し、掠りながらも回避したが、二撃目の後ろ蹴りは直撃してしまい、宙に体を浮かせた。

 ライチが地面に足をつく前に俺は腰から刀を抜き、そこそこの力を入れライチに振り下ろす。もちろん殺す気はない。この程度でライチが死なないのは俺が一番理解している。

 絶対回避不可能な態勢だったはずのライチだったが、刀を回避した。

 どうやって?それは空中で移動したのだ。

 

「へぇ、空中に足場を作り移動…空間魔法の制御うまくなったね」

「いつまでも弱い私じゃ…ない!」


 ライチの持つ刀に魔力が集まっていく。

 彼女は刀を天へと向ける。すると、巨大な刀身の形をした魔力が空に浮かぶ雲を貫く。

 

「天閃」


 そしてライチの声とともに、大きさにそぐわない速度で俺に振り下ろされた。

 

「流石ライチ、成長したね…でも」


 俺は刀を納刀し、お得意の技を放つ。


「断絶」


 その瞬間、高密度の魔力の刀が、突如現れた空間の裂け目によって打ち消された。

 次の瞬間、ものすごい衝撃波が俺たちを襲う。


「やっぱり、規格外よね」


 ライチにはこの事態も想定できていたのだろう。顔に焦りの色が全然見えない。

 かといって余裕の色も見えていないが。

 素早くライチとの距離を詰め、回し蹴り。


「!?」


 ライチは反応が少し遅れ、回し蹴りが左肩に直撃してしまい後退する。


「あなたは本当に変わらないわね。どれだけ私が努力していても届かない高みにいつもいる。あなたの弟子となった時から私とあなたとの差は縮まらない。でもね――」


 彼女の持つ刀から眩い光が溢れ出る。


「私は諦めないわ。あなたの成長を追い越すまでは。だって、あなたの一番最初の弟子だから」


 ライチは一瞬で俺との距離を詰める。そして、即座に魔法を展開しながら刀を振る。


極光閃舞きょっこうせんぶ


 さらにライチの剣速は上がり続ける。

 だが、俺もライチの剣速と同調するように速度を上げる。

 よって、速くなった彼女の攻撃でも、俺には通用しない。


「まだっ!」


 俺になかなか攻撃が当たらないことに苛立ちを見せるライチ。


「そろそろ俺のターンだろ?」


 右手で魔法を構築する。


「させない」


 俺の魔法の構築に時間がかかると察したライチが、攻撃を仕掛けてくる。

 

「魔法の構築にかかる時間を見抜いたのはよかったが、無防備に魔法を構築する馬鹿はいないぞ?」


 何もしていない左手で、即座に火魔法を展開する。

 

「複数の魔法を同時構築!?」


 左手の火魔法に気づいたライチは、すぐに水魔法を展開する。

 

「ウォーターシールド」


 水の盾を生成した彼女はそのまま突っ込んでくる。そこに火魔法のファイアランスを放つ。

 水の盾に火の槍がぶつかり、水蒸気が発生した。


「はぁ!」


 水蒸気の中からライチが出てきた。手に持つ刀には光魔法が付与されている。

 おそらく光魔法のライトカッターだろう。

 でももう遅い。俺の魔法は完成した。


「ライチ、上だよ」


 俺の言葉に反応したライチは上を見て、驚く。

 なぜなら俺とライチの頭上には幾つもの氷の粒が浮いていたからだ。


氷結雨フロストレイン


 氷の粒が物凄い勢いでライチに降りかかる。

 最初はライチも刀で氷の粒を斬るなどして、防御できていた。しかし、3秒、4秒と経過してくると、体に切り傷が増えていった。


(そろそろ終わりにしようか)


 俺は刀を天へと向ける。

 すると、高密度で巨大な魔力の刀身が姿を現した。

 

「それは…私の――」

「天閃」


 次の瞬間、巨大な魔力の刀身をライチに振り下ろした。

 

――ユーリ視点――


 現在、ライチを除いた幹部全員は一か所に集まっていた。

 本来ならこの場にライチもいるはずなのだが、出て行ったきり戻ってこない。


「ライチおそいね」

「そうだね」


 ニィラの言葉に同意する。

 いくら何でも遅すぎる。


「大丈夫でしょ。だってあのライチよ?」


 ソルミナは興味なさそうに言い、それに続いてホライも口を開く。

 

「確かに、ライチはレ…ゼロ様に次いで強い」

「まあ、そうだね。この場にいる誰よりもゼロ様に近い人だからね」


 ライチはゼロの最初の弟子だ。

 ライチ、ソルミナ、カゲそして俺が幹部の中でもゼロとの関わりが深い。


「でぇ?実際ゼロ様とライチを省いてランキングを作るなら1位と2位は誰になると思う」


 ニィラが楽しそうに言った言葉に、カゲが考える仕草を見せる。

 

「カゲ、そんな真面目に考えなくても…」

「いいや!これは重要なことよ」

「そ、そうか…」

「この中で一番強いのはユーリだと思う」

「カゲ!?」


 カゲの出した強さランキング1位の人物に納得ができなかったのか、ソルミナが驚いたような声を上げた。

 そして、俺を睨んでくる。


「ユーリ…なんであなたが…」


 俺に対して対抗心を燃やすソルミナ、今すぐ飛びかかってきそうな雰囲気の中、突然会議室の扉が開かれた。


「大変です!ゼロ様とライチ様が!」


 会議室に入ってきたのは、ニィラの部下だった。

 

「どうしたの?」


 ニィラが冷静にその部下に訊く。

 

「レイスt」

「ノーフェイスのリーダーの呼び方はゼロ様よ。他の部下にも伝えなさい」

「は!はい!…ゼロ様とライチ様が試合場にて、戦い始めました!」


 その言葉に全員が驚きの表情を見せる。

 ゼロとライチの戦い。幹部最強VS組織最強の戦いは幹部たちに興味を持たせるには十分すぎる情報だった。

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