6話 見知らぬ子供に襲われたんだが?

 町から出発し、5分も経たないうちに大洞窟が見えてきた。


「あれがガラム大洞窟か」


 大洞窟の存在を聞いた時から予想はしていたが、本当にでかい。入り口の大きさは日本のトンネル6、7本分が綺麗に収まるぐらい。

 今回俺がガラム大洞窟に来た目的は大きく2つ。

 一つがガラム大洞窟を見てみたいというもの。そして二つ目は、行方不明になった子供を回収することだ。

 もちろん、奴隷にしたりとか非人道的な扱いはしない。

 大洞窟の前へ着地し、中へ入ろうとした時だった。洞窟内より声がしたため近場にあった木の後ろへ移動し、気配を消した。


「はぁ、まさか大洞窟の中間地点で崩壊が起てるなんてな」

「ああ、誰も予想なんてしなかったさ。しかし、冒険者協会は何考えてんだ?」

「本当だ。たかが子供3人の捜索に多数の3級冒険者を使うなんて。大洞窟の中間地点より前のエリアを捜索して見つからねぇんだから、中間地点よりさらに奥。そんなもん、子供が生きていけるわけがねぇ」

「そうだよな。洞窟の奥は最低でもクラス3、そんな魔物がうじゃうじゃいる地獄だ」

「ま、上に文句言ってもしょうがねぇ。数日後、大規模な捜索隊が編成されるらしいから、その時までにできることをしておこうや」


 大洞窟から出てきたのは、武装した4人の男性だった。

 装備している武器や防具はそこそこの性能をしているため、戦闘慣れした冒険者だとわかった。

 

〇補足情報

 冒険者が知っておくべき情報2つ

 冒険者は5級~特級まで存在している。現在、特級冒険者は世界で20人。

 魔物はクラス4~クラス1まで分けられている。神獣はクラス1に相当する。


 4人の冒険者が去ったあと、俺は洞窟の前に立つ。

 

「さて、洞窟探索始めますか」


 期待を胸に抱き、洞窟内へ足を踏み入れた。




 入口から数km進んだ地点に、広い空間があった。

 至るところに岩の山ができており、とても歩きにくい。

 

(もしかして、ここがさっきの冒険者たちが言っていた崩壊した中間地点なのか)


 中心部分まで移動してみるが、先へ進む道はどこにも見当たらない。

 おそらく崩壊の際に、通路がつぶれてしまったのだろう。

 俺は右足を上げ、地面を蹴った。

 その瞬間、洞窟内が揺れ岩の山が崩れる。


「これはこれは、運がいいな」


 岩の山が崩れた箇所にちょうど通路のようなものが見えた。

 しかし入口の半分がまだ埋まっている。そのため、右手で風魔法を構築し、岩に当てた。

 風魔法の直撃を食らった岩は弾け飛び、通路の入り口が露わになる。

 

「それにしても何か妙だな」


 奥へ続く通路を進み出した俺は、違和感を感じた。

 現在地である大洞窟の中間地点まで移動してきたが、魔物に遭遇していない。

 先ほど出てきた冒険者が洞窟内の魔物をすべて討伐したとは考えにくい。

 もしかすると、行方不明になっている子供3人と関係しているのではないのだろうか。

 違和感に着いて思考を巡らせながら進むこと約12分。

 俺は相変わらず狭い通路を進み続けていた。


(まったく、この通路どこまで続いてんだ?)


 そんなことを考えていると突然、正面から炎が巻き上がった。


「っと、火魔法か」


 一歩下がり、水魔法を使い炎を鎮火する。

 そしてすぐさま火魔法を使った人物は誰なのか特定するために探知魔法を展開した。

 すると、この先に3人の子供の魔力を検知。


(3人。行方不明になった子供だろうな…ん?それに、この洞窟のさらに奥にある反応……まさか彼女がここにきているとは)

 

 この場所に予想外の人物が来ていたことに驚きを感じつつ、通路を進む。

 とりあえず俺の最優先の目的は子供3人にある。

 狭い通路がようやく終わり開けた場所に出た。中間地点より狭いが、崩壊はしていない。中央には子供3人が立っている。

 その3人の中で先程火魔法を使ってきたと思われるのが、真ん中に立つ少女だ。

 烈火のように赤い髪と瞳、火魔法が似合う人間ランキングのトップを狙えるレベルの容姿だった。

 

「あなた強い人ね?完全に奇襲に成功したと思っていたのに」

「先程の火遊びのことか?」


 俺は謎の最強キャラクターモードで対応する。


「へ、へぇ…。あなた、随分言ってくれるわね。この私カティナ・フレムバーン、売られた喧嘩は買うわ」


 カティナと名乗った少女は周囲に火の球を生成する。


「トル、ニット。相手は今までの冒険者たちよりは強いから、油断せずにね」

「わかってる」

「うん」


 両サイドにいた男の子がそれぞれ左右に展開し、俺に攻撃を仕掛けてくる。

 剣の使い方はそこらの冒険者よりはしっかりしているが、騎士ほどではない。

 だから素手で剣を受け流す。


「才能はあるのだろうが若すぎる」


 素手で受け流されたことで、呆然としていた二人の男の子に回し蹴りをお見舞いする。


「ぐっ」

「ガハァッ」


 物凄く手加減をしたのだが、二人とも吹っ飛んでしまった。

 

(これ手加減ミスったらってしまうやつだ)


 内心ヒヤヒヤしている俺に対し、カティナが火魔法を放ってくる。


「ファイアボール」

「ウォーターウォール」


 水の壁を生成し、ファイアボールをすべて消滅させる。

 それを見たカティナが真剣な表情で言った。


「わたしはあなたを甘く見すぎていたみたい。ニット、トル、二人とも全力で行くわよ」

「使うんだな」

「ええ、トル頼むわね」

「もちろんだ。ニットお前にすべてかかっているぞ?」

「わかった、全力で行くよ」


 相手側の雰囲気が変わったため、俺も冷静に分析を始める。

 まず赤髪の少女カティナは、司令塔のような役割をしている。実際頭の回転も速く判断力もあるので適任だろう。そしてカティナは火魔法に関してはかなりレベルが高い。そこらの魔法師では相手にならないぐらいに。

 そしてそのカティナと一緒にいる男の子二人、青髪の方がトルで、黒髪の方がニットという名前だ。

 トルは剣の腕がかなり良く、将来有望だ。だが、ニットからは何も感じない。かと言って悪い部分はない。剣の使い方もそこそこうまかった。平凡というのが正しいだろう。

 ただ、俺にはニットが弱いようには見えなかった。


「ファイアウォール」


 カティナがファイアウォールを俺の周囲に出現させた。

 おそらく視界をふさぐため、この状態から攻撃を仕掛けてくるなら――


「はぁ!」


 右からトルが現れ、剣を振る。

 その剣を最小限の動作で回避した後、トルに向かって拳を振る。


氷爆アイシクルバースト


 俺の拳がトルに触れる寸前、トルが氷魔法『氷爆』を使用したため、咄嗟に拳を引っ込め、氷魔法を避ける。

 

(まさか氷魔法が使えるとは以外だった。だが、なぜファイアウォール内部で氷魔法を…)


 氷魔法を回避した後、トルと対峙する。その間にアイシクルバーストによって発生した氷が溶け、水になり地面に水たまりを作る。

 その水たまりを見た俺は一瞬で相手の考えが分かった。


(あー、俺の足元の水たまりを凍らせて身動きを封じたいってことね)


 あえて水たまりから抜け出さす、そのままでいるとトルが再び氷魔法を使用してくる。


氷爆アイシクルバースト


 予想通り水たまりは俺の足を巻き込む形で凍った。

 それを見たトルは絶好のチャンスだと判断したのか、カティナを呼んだ。


「カティナ!今!」

「インフェルノ!!」


 呼ばれたカティナは火魔法の上級であるインフェルノを放つ。

 正直これには驚いた。

 カティナは確かに火魔法の才能がある。しかし、上級魔法を放てるほどではないと判断していた。なぜなら、彼女はまだ魔力の総量が少ないから。

 一発撃てば、魔力は枯渇寸前になりそうなぐらいの量しかない彼女がなぜ上級魔法を使ったのか。これは俺の予想だが、アーティファクトの効果だと思う。

 

「アーティファクトに頼って、お前はそれでいいのか?」


 俺のカマかけにカティナの眉がかすかに動いたことを見逃さなかった。


(やっぱアーティファクトか)


 灼熱の炎が俺を包みこむ。かのように見えたが、魔法障壁が発動し残念なことに俺の体に届くことはなかった。

 やがて炎が消滅し、無傷の状態の俺が3人の前に立った。


「あなた本当に人間?」

「ああ、俺はそのつもりだ」


 カティナと会話する。

 だが、これはただの会話じゃない。時間稼ぎだ。

 ニットが体に魔力を相当溜めている様子から、そろそろ大技が来ると予測できる。

 もちろん、逃げるや中断させるという考えは俺にはない。


「そろそろか…」


 そう呟いた瞬間だった。

 

「瞬閃」


 ニットが溜めていた魔力が一瞬にして武器に宿り、ものすごい速度で俺に攻撃を仕掛けてきた。


「予想以上だ、だが問題はない」


 俺はニットの攻撃を防御…するわけでもなく、逆に魔力を封印する。

 そんな行動をとればどうなるか分かるだろう。

 右手が切られ肘から先がなくなり、横腹も深く切られた。

 一般人基準に考えれば致命傷。

 そんな俺の様子を見た三人は、勝ちを確信したようだ。


「ふふっ。あなたは強かった。けど、私たちより弱かった」

「今までの冒険者の中で一番手強かった」

「ふぅ…」


 少女は笑い、ニットとトルは安心している。

 どうやら、俺の作戦はうまくいったようだ。実は今回、こんなことをしているのには理由がある。


「ふふふ…ははははは…完璧…」


 作戦が上手くいきすぎて、思わず笑いが漏れてしまった。

 そんな俺に三人は、不気味なものを見るような視線を送ってきた。


「こいつ、おかしくなったのか?」


 トルは震える手で剣を構え、ニットは再び魔力を集め、カティナは火魔法の構築を始める。

 それぞれ再戦態勢に入っている最中の3人に聞かせるように話し出す。

 

「人間はとても弱い種族だ。体の一部を欠損しただけで致命傷になってしまう。手、足、腹…」

「なにを、言っているの?」


 カティナが睨みながら訊いてくる。

 そんなカティナに俺は膨大な魔力を出しながら言った。

 

「俺に人間の常識を当てはめるな」


 切られた腕を風魔法で引き寄せて、肘にくっつける。その状態でコートに付与した自動回復を発動させる。

 1秒もしないうちに腕はくっつき、脇腹の傷も完治していた。

 試しに右手の指先を動かしてみる。

 

「ば、化け物…」

「人間じゃない…?」

「お、落ち着きなさい!」


 動揺している三人に、さらに追い打ちをかける。

 

「第二ラウンド開始だ」

「へ?」


 瞬時にカティナとの距離を詰め、反応する前に右手を顔の前に出し、高濃度の魔力を大量に送りこんだ。


「うっ!」


 カティナが苦しそうに地面に手をつく。

 その様子を見たトルが叫びながら突撃してくる。


「カティナ!お前なんてことを!」


 空間転移で元の立ち位置に戻り、トルの攻撃を回避する。

 

「な、なに…これは…」


 カティナが弱々しい声を出す。


(かなり効いているな)


 カティナが苦しんでいる理由、それは魔力酔いを引き起こしたからだ。

 生物はそれぞれ魔力を宿している。生物が持つ魔力の総量よりも多い魔力を長期的、または高濃度の魔力に一気に当たってしまうと、現在のカティナのように魔力酔いの状態になってしまう。

 まあ、車酔い、船酔いの強化版みたいなものだ。カティナの様子を見て分かる通り、結構つらい。俺も小さいころ何度か経験したから分かる。


「ニット!使えるか?」

「ギリギリ一回だけなら、なんとかなる…と思う」

「わかった。俺が時間を稼ぐ」


 トルが剣に魔力を流し始めた。


(火魔法を剣に付与しているのか…あの年で器用なことをするなー)


 魔法の付与に感心していると、もう一つのことに気づいた。

 

「お前、それ限界なんじゃないのか?」


 俺がトルが手に持つ剣を指差しながら指摘をすると、睨まれた。


「限界だからなんだ?」


 どうやら本人も気づいていたらしい。

 まあ、一般の武器に魔力を流すと、ダメになるってのは常識だから知ってて当然か。

 火魔法の付与が完了したトルが俺との距離を詰め、剣を振るう。


「はぁ!」


 防御すらせず、トルの剣を迎え入れる。

 すると、コートに付与された物理障壁と魔法障壁が同時に発動し、トルの剣を受け止める。

 

「硬い…」


 そのまま力ずくで障壁を超えようと、トルは頑張った。しかし、障壁が割れる気配はない。

 それを見たトルは障壁突破を諦め、剣を手放し後退した。

 トルから捨てられた剣を手に取ると、刀身が折れてしまった。


(やっぱ折れたか)


 腰から神晶樹の刀を抜き、トルの近くに投げた。

 それを見たトルは訝しげにこちらを見る。


「大丈夫だ。罠などない」

「それを信用しろと?」

「信用しなくてもいいさ。だが、この状況でその刀を使った場合の影響を考えれば…どうかな?」


 そう、トルの武器はすでに折れた。魔力を使用しないと俺とまともに戦うことすら不可能な彼は、魔力を通しても壊れない武器が喉から手が出るほど欲しいはずだ。

 トルは悔しそうな表情をしながら、ゆっくりと刀を地面から抜き構える。

 

「負けても文句言うなよ?」

 

 トルそう言いながら火魔法を刀に付与し、斬りかかってきた。

 そして、先ほどと同じように俺の展開する障壁とぶつかり、障壁が破られた。

 障壁を破ったことを確認したトルは、俺から距離をとり刀を見つめた。


「すごい…これが神器…」


 本人も予想外だったのだろう。あまりの火力に驚いている。

 だが、それ故の問題がある。

 

「神器の力は強力だ。それ故に偽りの強者は神器に頼る」


 俺はゆっくりとトルに近づいていきながら、質問をする。

 

「真の強者とはなんだと思う?」


 質問をされたトルはこちらに対しての警戒を解かずに答えた。


「……神器に頼らない者」

「正解だ。神器に頼らない。それが真の強者だ。ちょうどいい。教えてやろう少年…真の強者の戦い方を」


 そう言って俺は拳を構えた。



 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る