4話 とあるおっさんは騎士団長

 雷属性の剣技と魔法を扱う女騎士?さんの相手をしていると突然、強そうな雰囲気を纏ったおっさんが現れた。

 銀髪のツーブロックと目つきが怖く、年齢は30代前半っぽい。イメージは漫画に出てくるような893のボス。


「ふぅ、雷が一瞬見えたから急いで来てみれば正解だったようだな。リリの嬢ちゃんがここまで追いつめられるとは……。そこのお前がやったんだな?」


 おっさんはこちらを睨みながら、異空間から大剣を取り出した。

 その大剣はシンプルなデザインだったが、武器が纏う魔力…いや、神力のおかげで神器だと理解した。


「神器か」

「ほう、よくわかったな。これは俺の神器、次元剣だ。見た目は全く神器っぽくはないが…一瞬で見抜くか。師匠みたいだな」


 大剣を構えたおっさんはこちらをジッと見続ける。

 おそらく俺の出方を見ているようだ。

 

(女騎士さんの方の技はどれも演出が良くて魅力的だったが、この人のはどうかな?)


 俺も鉄剣を構える。


「団長、気を付けてください。彼は…ゼロと名乗ったあの男は危険です」


 女騎士さんがおっさんにそう言う。


「ああ、ゼロとやらが放つ膨大な魔力のおかげですぐに理解できたよ。本当に危険な人間だとな」


 おっさんが大剣を握りしめ、こちらを再度睨む。


(睨み怖、でも、女騎士さんところの団長なのか…このおっさん……)


 いつまでもおっさん呼びだと失礼かなと思ったので、名前を聞いてみることにした。


「俺はそこの女騎士から聞いた通りゼロだ。お前は何者だ?」

「そういえば自己紹介がまだだったな。俺は白騎士団団長のホルム・ダンベローグだ」


 予想通りおっさんは団長だった。

 団長なら神器を持っているのはわかるのだが、なぜ女騎士さんまで?外見は俺と変わらないぐらいなのに……。もしかして、英雄の子孫という設定なのだろうか?

 

(どちらにせよ神器もちすぎだろ。この場所に着いて1時間もしないうちに二人も神器持ってる人間を見つけられるとか)


 神器はもしかするとあまり珍しいものではないのかもしれないと考えていた俺に、ホルムが声をかけてくる。


「おいおい、目の前に俺がいるってのに、違うことを考えているな?」

「これは失礼なことをした。だがしかし、残念なことにお前じゃ興味を持てないのも事実」


 煽るようにそう言うとホルムの顔が少し険しくなった。

 どうやら、プライドはあるようだ。まあ、プライドがない騎士団長など、この世に存在はしないだろうが。


「言ってくれるじゃねぇか。そんなこと言われちゃ俺も手加減ができないな。殺す気でいくぞ?」

「どうぞお好きなように」


 俺とホルムの間に沈黙が訪れる。

 どちらも微動だにせず、ただ見つめあう。


――ホルム視点――


 大剣を構え、ただゼロと見つめあう。

 第三者から見ればただ見つめあうだけのこの状況。しかし、俺はすでにゼロと何度も戦っている。

 何十通り、何百通りの戦術、技の組み合わせで何度も何度も何度も…頭の中で戦闘をする。


 だが、俺は一度も勝てていない。


 汗が額から頬を伝い地面へ流れ落ちる。

 

(なんてヤツだ…。強さの底が見えない。俺がどう攻撃しようとも初撃でやられる…。こいつは師匠と同じ領域にいる。あの絶対的な強さを誇る師匠と同じ…)


 どれだけ相手が強くても、人類の敵となるならば逃げずに戦わなくてはならない。

 覚悟を決め一歩踏み出し、大剣を素早く振る。


「次元斬」


 不可視の斬撃を放つ。しかしゼロは、まるで見えているかのように横に回避した。

 再び不可視の斬撃を放つ。


「はぁ!」

「芸がないな」


 二発目も軽く避けられた。

 ここで俺は不可視の斬撃をゼロがはっきりと認識していることを確信した。


「そうかい。じゃあ、これならどうだ?」


 ゼロへ接近し、剣を振る。

 1撃目は素手で受け流され、2撃目は回避され、3撃目はノールックで回避された。


「予想外か?これだけまともに戦えないのが?」


 一見ゼロの言う通りまともに戦えていないが、この一連の行動は―――


「いいや予想通りだ。この行動はすでにからな」

「?」

「遅延斬」


 俺も持つ次元剣が光を放つ。

 そして次の瞬間、ゼロの周囲に斬撃が発生した。

 ゼロはすぐさま俺から距離を取ろうと後退したが、足が少し切れていた。

 血が出てないことから、服のみが切れたのだろう。これだけやって肌に攻撃が届かないのは、流石に予想外だ。


「ほう、少し侮っていたようだ。服が少し切れてしまった」


 そう言いながらゼロは自身の服の切れた箇所を見る。

 俺も先ほど切った箇所に視線を向けると、そこに切れた箇所など存在しなかった。


「ふむ、自動修復もいい働きをするものだ」

「化け物か、お前」

「ひどい言い方をするな。俺もお前たちと同じ人間だよ」


 ゼロはそう言いながら手をこちらに伸ばしてきた。

 

「できればすぐに倒れないでくれ」


 伸ばした手の指についてある指輪が、巨大な黒い触手のようなものに変化した。

 そして、気づいたときには触手のようなものは俺の目と鼻の先にあった。


「なっ!?」


 防御すらできずに顔面に直撃し、後方にあった建物の壁にたたきつけられる。

 視界がボヤケ、吐血し、平衡感覚がおかしくなった。


「魔力の伝導率もかなりいいし、動きも悪くはない。これはかなりいいものが作れたな。さて、もう試すものは試したし帰ろうか」

「待ちなさい!」


 ゼロが俺たちに背を向け歩き出した瞬間だった。

 リリが雷命刀を構えゼロに叫んだ。


「やめろっ、…リリの嬢ちゃんじゃ…奴には勝てない!」

「団長。たとえそうだとしても、私は今ゼロを見逃したくはありません。ここで逃せば彼はさらに凶悪になっていつかこの町を…いやこの国…世界さえも滅ぼす存在になるでしょう」


 確かにリリの言うことは正しいかもしれない。ゼロは現時点でも国を揺るがすほどの実力を持っている。あと数年放置するだけでもその力はさらに凶悪になることは間違いはないだろう。

 しかし、ゼロを止める方法は俺たちは持っていない。

 せめてこの場に師匠がいてくれたなら、少しは変わったかもしれない。


「お前が俺を止められると本気で思えているのか?」

 

 ゼロがリリの方へ振り向き、放ったその声で俺の背中に悪寒が走る。

 

「それはやってみないとわからないでしょう!雷光一閃!!」

「やめろ!!」


 雷を纏い走りだしたリリに俺の声は届くことはなかった。


「紫電一刀」

「!?」

「なっ!?それは!!」


 リリの雷命刀がゼロの持つ鉄剣に弾かれ、体勢を崩す。が、その状態から斬りかかる。

 

「悪くない攻撃だ」


 ゼロはリリの攻撃を軽く鉄剣で受け流しながら反撃する。

 しかし、ゼロの反撃は当たらない。弱っているのかと思ったが、その行動を見て俺は嫌な予感がした。


(あの行動…まさか!?)


 ゼロのしようとしていることの見当がついた俺は、咄嗟にリリに叫んだ。


「リリ!全力で後ろに飛べ!」

「遅延剣」


 ギリギリのところでリリは斬撃を避けることができた。

 

「この技は初見じゃないとあまり効果はないな」


 ゼロは考える仕草をしながらそう言った。

 

「リリの嬢ちゃん、大丈夫か?」

「はい…なんとか無事です」

「まさか俺の技まで真似てくるとはな…。は?」


 顔を上げると、先程まで目の前にいたゼロの姿はなくなっていた。

 周囲を見渡すがどこにもいない。そして膨大な魔力も感じなくなっている。


「なんだ?消えた?」

「そんな…」


 俺はその場に座り込む。


「団長?大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ。久しぶりに疲れたなぁ。さて、これから忙しくなりそうだ」

「ええ、彼の戦闘能力は一騎士団の団長とまともにやり合えるレベル。複数の騎士団と協力し倒すことが最も正確でしょう」


 リリの言葉を聞いた俺は頭を搔きながら空を見る。


「チッ、『屍』討伐作戦を思い出しちまう……」


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