隠れ最強MOBたる俺のしたい事
Oとうふ
1章 始まり
1話 転生しました
日本で生まれ、平凡な人生を送る男子高校生。それが俺だった。
世界はよくできたものだ。人間にはそれぞれの感性というものがある。
そのため、好きなもの嫌いなものとがはっきりと分かれる。
俺は、幼いころからアニメが好きだった。アニメの中のように、魔法や剣術などを駆使し、モンスターなるものと戦ってみたかった。
だが、残念なことにこの世界には魔法なんてものは存在しない。
とても残念だ。
その日も俺はいつも通り、学校から自宅へと移動している最中だった。
スマホで電子書籍を読みながら歩きなれた道を進む。
「そうだよね」
「でね、その子がね」
数メートル先を二人のJKが笑いながら歩いている。
正直、あまり近づきたくない。
日本のJKは恐ろしい。(偏見)
途中で道を変更し、JKたちから距離を取ろうと考えていたその時。
「ん?」
何か、鉄のズレるような…そんな音が俺の耳に届いた。
最初は勘違いか空耳だと判断した俺だが、再び聞こえたためその考えを捨て周囲を見渡した。
すると、JK二人の歩いている道の端に長くて大きい鉄パイプがあった。
(まさか、異世界転生系アニメみたいに、鉄パイプで死んで転生するとかないよな?)
注意深く鉄パイプを観察していると、徐々に倒れ始めた。
俺はバッグを手に持ち走り出す。
(くっそ!なんでそんなベタ展開が俺の目の前で起きるんだよ!)
見て見ぬふりも考えたが、実行に移すことはできなかった。
JK二人を守るようにして立ち、バッグを盾にして鉄パイプを受け止める。
衝撃が俺の手から全身に伝わる。
(そこそこいてー)
鉄パイプはそこそこの重量があったため、腕にダメージが入った。
おそらく、バッグの中に入れておいた学校用のタブレット端末は壊れただろう。
買い替えのお金、どうしよう…と、腕をなでながら考えていると後ろからJKが声をかけてくる。
「あ、あ…」
「大丈夫ですか?」
JKの片方が、心配そうに俺に声をかけてくる。
声をかけてくれた子は長く伸ばした茶髪が美しく、顔も整っている美少女だ。
もう一人の黒髪ショートの女子高生は、茶髪美少女の後ろに隠れるように立っている。
「あ、大丈夫ですよ。俺自身ケガもしてないですし、二人もケガないですよね?」
「あ、はい。私たち二人は大丈夫です」
安心した。これで、ケガしていたら俺が気まずくなっている。
(まあ、異世界転生アニメのような、ベタベタな展開はさすがに現実じゃ起きないわなー)
今回落ちてきた鉄パイプも重くはあったが、当たっても最悪骨を折るかどうかだった。
「お互い大したケガがなくて良かった。それじゃ、俺はこれで」
「あ、待ってくだ」
美少女JKが俺を引き留めようとした瞬間、ブレーキの音が聞こえた。
その音はだんだんと俺たちに近くなり、気づいたときには俺の視界は真っ暗になっていた。
「おめでとうございます。無事、元気な赤ちゃんが生まれましたよ」
誰かから誰かに手渡される感覚がする。
(なんだ?病院に運ばれてる最中か?)
俺はゆっくりと目を開ける。しかし、視界がボヤけてはっきりと自身の現在の状況を確認できない。
「かわいいわね」
「ああ」
男性と女性の声が聞こえる。
二人の発言と先程の感覚からある程度の予想がつく。
この状況、俺は転生した可能性が高い。
(ベタ展開とか無いわー、とか言ったからか?)
さて、転生したなら転生したで受け止めるとしよう。現代の人間は異世界転生系物語のテンプレを熟知している。俺とてこの程度では焦りもしない。
現時点で最大の問題は魔力が使えるかどうかだ。異世界もののアニメとかでは、目に力を入れれば魔力とかが見えたりしていたな。
俺は目に力を集めるようなイメージを作り、目を開く。
すると、視界のボヤけがなくなり、男性と女性の姿がはっきりと見えた。そして、その人たちが纏うオーラのようなものも見えた。
(これは魔力!多分魔力だよな!)
これからの人生、楽しめそう。そう思った俺だった。
異世界に転生し、気づけば数年が経過していた。
俺の現在の年齢は8歳。特に事件に巻き込まれることなく、平和に過ごせている。
「母さん父さん、少し外で友達と遊んでくる」
「はーい」
「気をつけろよ」
両親にそう言って、家を飛び出した。
実は、この村に友達は一人もいない。
その理由は、俺はこの村であまり遊ばないからだ。
だいたい両親に友達と遊んでくるという時、俺は近くの森で秘密の特訓というものをしている。
田舎とは最高で、人口が少ないから隠し事とかに苦労しない。
ちなみに俺の隠し事というのは魔法の練習だ。
生まれてすぐ、前世の知識のおかげで俺は魔力の扱い方をほぼ完全に理解することができた。
そして、魔力を扱い数か月でこの世界の魔力は本当に万能だ。と、つくづく実感した。
目に魔力を通せば、視力が上がり魔力を視認することができる。耳に通せば、聴力が良くなる。体全体に通せば、身体能力が向上する。
身体強化のおかげで、この年で前世での俺より力も強いし足も速い。
家からある程度離れることも楽にできる。
(ここまで来たら使って良いだろう)
家から離れた場所で止まった俺は、足に魔力を集中させ魔法を使用する。
使用する魔法は風魔法『ジェット』。風を噴出する風魔法。
この魔法は便利で、移動速度の上昇や飛行にすら使える。
もちろん、空を飛ぶとなるとそれなりに魔力が必要になってくるため、常人にはあまりにも燃費が悪すぎる…まあ、俺は大丈夫だ。
幼いころから魔力の総量を増やすため、練習をしていたおかげで魔力の総量はそこらにいるような魔法師の数百倍以上はある。
魔力の総量の増やし方も異世界アニメ同様、魔力切れ寸前まで魔力を使う。それだけだ。
空を飛び、数分が経過した。目的地に到達した俺は、ゆっくりと着地する。
ここは森の中、まあ森と言っても普通の森ではない。ここは『ウルガナム大森林』という、この世界では危険な場所として認知されている所だ。
俺にとって深くまでいかなければ特に危険とは思わない。
何十回とこの森に足を踏み入れ、地形を理解しているのもあるが、魔物がそこまで強くないのだ。
「さっそくか…1、2…、4体」
探知系の魔法を展開しているため、俺に近づいてくる生命体は大体わかる。
今回、俺に近づいてきているのは、ハイウルフという地球で言うところの狼的な魔獣だ。
「とりまサクッとやっちゃいますか」
魔法によって周囲に水の塊を生成する。
水魔法『スプラッシュ』。周囲に水を撒き散らす魔法。魔力をこめる量によっては、鉄なども貫通する威力になるという低コスト高威力の便利魔法だ。
俺は手を魔獣たちがいる方向へ出した。
次の瞬間、周囲にあった水の塊はものすごい勢いで飛んでいく。
そして魔獣に当たる寸前に拡散し、魔獣の体は穴だらけになった。
「うわーグロいっちゃグロいね」
自分でやってなんだが、引いた。
(魔法はこの1ヶ月でほぼ全て試したし、そろそろボス戦いっても良さそうだな)
そう考えた俺は、ボス戦に期待しながら森の奥へと足を運んだ。
森の奥は不思議な空間が存在していた。
木々が所々結晶化していて、水色の光を放っている。
日本にこんな場所があったら、訪れる観光客で埋め尽くされそうだ。
周囲を警戒しつつ、さらに奥へと進んでいく。
この森、『ウルガナム大森林』の主はこの世界に13体存在すると言われる神獣の中の1匹、神狼ウルガナムだ。
正直、勝つか負けるかなんて分からない。もしかしたら、負けるかもしれない。なぜなら相手は神に分類されている存在なのだから。
「久しぶりに少し緊張してきたかも」
震える手を握りしめ、心を落ち着かせる。
前方に光が見え始めた。おそらくボスステージに近くなっているのだろう。
そのまま進むこと数秒、大きくひらけた場所に出た。この場所の中心には大きな木が立っている。
だが、ボスらしき存在が確認できない。
もしかしたら隠れて様子を窺っているのではないかと思い、数分の間待機してみるが特に何も出現することはなかった。
「あれ?ボス出てこない…」
開けた場所の中央に立つ巨大な木の下まで行く。
さらに数分経過するが、変化は特に起きない。
もしかしたら、すでに誰かが神獣を倒してしまったのだろうか?という考えが脳裏をよぎる。
(ま、毎日ここに通えばいつか会えるだろ)
諦めて帰ろうとした瞬間、探知魔法に反応があった。
(この反応…空間魔法か)
周囲を見渡すが特に何もない。空間魔法の探知は出来ても転移先の位置の特定ができない。
(こんなに魔法を隠すのがうまいのは予想外…でもないけど…)
ガサッと頭上から微かに音が聞こえた。
次の瞬間、俺は全力で回避行動をとる。直後、すさまじい衝撃波が俺を襲った。
周囲に舞う砂ぼこりのせいで状況を把握できない。
右手で風魔法『ウインド』を構築し、完成と同時に右手を思い切り振る。
周囲の砂ぼこりは俺のウインドによって吹き飛ばされ、視界が回復した。
「素晴らしく神々しい見た目をしてらっしゃるオオカミさんだ」
巨大な木の下には、大きな狼がいた。目は黄金に輝き、毛は一本一本の水色の淡い光を発している。立派な角が額から一本生えており、その角の上には魔法陣のようなものがある。
見た目が見た目だったため、凝視していると狼が睨んでくる。
〈人間よ、貴様は何を求め…いや、貴様の目を見ればわかる。フハハハハハ!!〉
狼は大きく笑う。それだけで、地面は裂け空気が揺れる。
絶対的な力の塊のような存在、神獣。それを改めて理解させられる。
〈面白い、かつてそのような目的で我に挑んできた人間はいただろうか?ふむ…随分と昔のことで名前が思い出せない…確か…バール・オルファドールだったか…〉
「目だけで分かるって…それはいいとして、今まで挑んできた人間の目的とやらに興味があるのだが?」
〈む、大体が神晶樹目当てだな〉
「え?なにそれ?おいしいの?」
〈ふっ、さあな。では殺し合いといこうか。人間!〉
狼が咆哮し、物凄い速度で俺に向かってくる。
狼の行動とほぼ同じくして、俺は両手に土魔法を構築する。構築している魔法は土魔法の『
狼の突進を回避し、すれ違いざまに魔法を放つ。
俺の魔法は狼に当たることはなかった。途中で魔法が消えたのだ。
〈何をしたか理解していない顔だな。いいことを教えてやろう。我ら神獣には低レベルな魔法と武器は通用しない。神獣を傷つけるためには、神器又は神と同じ次元の魔法が必要だ。だが、残念だな。現在、この世界に存在する神器はほぼすべてに所有者がいる。そして、人間ごときが神と同レベルの魔法を行使することは不可能だ〉
「へぇー」
〈だから、貴様が我を傷つけることは不可能だ〉
ふむ、神器ね…。
でも、それってもしかして……。
「神器で傷つけられるってことは、神器と同等のものならいけるってことだよね?」
〈そうだが……貴様何をするつもりだ?〉
「俺、昔から神と殴りあうのが夢だったんだよね」
〈は?〉
俺は体全体にありったけの魔力を流し、拳を強く握り狼に向かって走り出す。
〈頭がおかしくなったか…〉
狼が俺の拳を避けようとした瞬間、俺は手を引っ込めて思いっきり蹴りお見舞いする。
まさか、狼は蹴られるとは思っていなかったのか、反応が遅れ見事に頭部にクリティカルヒットした。
〈ぐっ。貴様…それは蹴りではないのか…〉
苦しそうな声を上げる神獣に向かって、挑発するように言った。
「さあ、神獣さんとやら、殴り合おうぜ」
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