【完結】真夏の夜に夢は見ない

卯月 絢華

Phase 00 鶴の一声

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 鶴の一声とは――有力者や権力者による一言を指すという。例えば、政治家の鶴の一声とか、社長の鶴の一声とか――そういう風に使うらしい。確かに――鶴の鳴き声は美しい鳴き声であるという。つまり――それだけ民衆を黙らせるという効果があるのかもしれない。アタシは、そう思ってた。

 ある時――アタシは、舞鶴にある「鶴屋敷」と呼ばれる洋館に行ったことがある。なんというか――鶴の一声って、彼のような権力者が発する言葉なのだろうと思った。しかし、その権力者の声は――老人なのでとてもしわがある声だった。

 マジレスすると、鶴の一声で殺し合いが行われるなんて――あってはならない。それも――アタシの友人を巻き込んだ殺し合いだったのを覚えてる。しかも、その中には元カレも含まれていた。なぜ――アタシの元カレが殺し合いに参加しなきゃならないんだよ。アタシにはそれが分からなかった。確か――レイジとか名乗ってたな。名字は忘れた。というか、名字すら覚える気になれなかったのは事実だ。なぜなら――彼はアタシとは違う伴侶を得ていたからだ。その時点で、アタシの青春は終わったも同然だ。だからこそ――アタシはレイジという人間を脳内から抹消した。抹消したつもりだった。

 しかし――人間の記憶というのは思っている以上にしぶとい。レイジはアタシのコトを覚えてたのだ。それも――中学校から高校に至るまでのコトをすべて覚えてたのだ。殺し合いが行われてる最中に、アタシはレイジと会ったコトがある。当然、アタシはレイジが一連の事件の犯人であると思ってたから――怯えていた。多分、怯えたところでアタシはレイジに殺される。その可能性は考えてた。まあ、実際に殺されてしまったのは――レイジの方だったんだけど。それも、殺害現場は四条大橋の下である。なぜ――アンタが殺されなきゃいけないのよ。アタシはそれが分からなかった。

 そもそもの話――アタシがこの殺し合いを知ったのは、とあるちまき売りで脅迫文を受け取ったからだった。それは――アタシに対して渡してきたのか。それとも――アタシへの挑発だったのか。今となっては分からないけど、多分、ちまき売りの子供たちは「彼女がなんとかしてくれる」と思っていたのだろう。思ったところで、アタシがどうにか出来る問題じゃないのは分かっていたのだけれど。

 そして、アタシが鶴屋敷で見たモノは――多分、この世のモノとは思えない惨劇だったのだろう。その惨劇は――祇園祭での惨劇と直接繋がってるなんて思ってもいなかった。

 今から書くコトは――もしかしたら私小説かもしれないし、私小説じゃないかもしれない。でも、実際にアタシが体験した話であるコトに変わりはない。だからこそ――アタシはこうやって小説家としてモノを書いているから。

 まあ、本編へと入る前にいくつか話がしたい。まずは――錬金術についてだ。錬金術は、西洋で発達した科学といえばいいのだろうか。ホムンクルスやら賢者の石やら、そういうワードを知っている人は多いかもしれない。もちろん、アタシだって知ってる。でも――タロットカードと密接な関係にあるなんて知らなかった。そのお陰で――アタシはこういうオカルト系に詳しくなった。それは事実だ。

 次に――徐福伝説だ。秦の始皇帝の命令によって「不老不死の薬」を求めた徐福は、蓬莱という場所を求めて中国から日本へとやって来た。しかし――徐福はそこで果ててしまった。一応、徐福伝説は全国各地に残っているけど――特に有名なのが京都北部の丹後半島に残る徐福伝説であると言われている。鶴屋敷の主が求めていたのは――不老不死だ。つまり、鶴屋敷の人間は徐福伝説で人生を狂わせられたと言ってもいい。


 錬金術と徐福伝説――交わりそうで交わらないこの2つのキーワードが混ざる時、事件の幕は開かれるのだ。

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