第11話 歪んだ真珠
僕はそのまま子ども部屋へと運び込まれた。母はむすっとした表情の僕に笑いかけたり変顔をしたりする。
僕は釣られて笑ってしまう。母は喜んだ。
乳母がおもちゃを何個か持ってきてくれて、僕の興味を引こうとおもちゃを振る。
そんな最中も僕はなんとなく落ち着かなかった。ずっと父のピアノが聴こえ続ける。
扉が開きっぱなしというわけではない。壁が薄いのだ。結構な距離なのに、家中にピアノが響き渡る。
耳を澄まして聞いてみる。
典型的なバロック調の音楽だ。バッハとかが作ってそうな感じ。
この世界は中世ヨーロッパ風の雰囲気があるから、音楽もそういうのが流行しているのだろう。
ーーー何時間経っただろう。
遊びの時間とお風呂と寝る前の絵本の間もずっとピアノは鳴っている。
僕はもっとそのピアノを聴いていたかったけど、眠気の方が勝ってしまい、いつしかすやすや眠ってしまっていた。
多分夢をみている。僕は現世にいたときのように高校生だ。赤子の姿ではない。
夢の中では、何かがイメージとなって僕の周りを飛び回る。不明瞭だった何かは、次第にくっきりとその形を現していった。
不恰好な真珠のネックレスをつけた母が父とダンスをしていた。
音楽の調子は変わらない。ずっとただのバロック風で僕はその曲の展開と終結をしっかり予想することができた。
そしてその予想は裏切られなかった。
そのことにがっかりした。
真珠のネックレスは突然はちきれた。
そしてバラバラと散らばった。
そのうちの一粒を手に取ってそれをぐしゃぐしゃに潰した。
そういう遊びをしばらくやった。
ぐしゃぐしゃになった一粒の真珠だったものの破片と破片を合わせていくと音符型になった。
僕はそれを5線譜に並べた。
僕はそこで目を覚ました。さっきの夢はなんだったのだろうか。
なんか嫌な予感がする。なんでか分からないけど……。
朝日が部屋に差し込んでいる。いつの間にかピアノの音は鳴り止んでいる。
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