第7話 ターフェルムジーク

 「旦那様、旦那様、起きてくださいまし。ルイーズがお帰りになりましたよ!」


 ハインリヒはいつの間にか眠ってしまっていた。マリアの言葉に飛び起き、すぐにリビングへと向かう。そこにはソファに腰かけて楽しげに歌うルイーズと無邪気に笑うカルマの姿があった。


「お帰りなさい、あなた」

「ただいま、ルイーズこそお帰り。仕事なんてほどほどでいいんだぞ。金は結構送ってあるだろう?それともまだ足りないかい」

「いいえ。十分よ。でも働くのも楽しいのよ、働かせて?」

「もちろん、君が働きたいならそれでいいよ」


 そのままルイーズに軽くキスをする。そしてカルマにも。キスした瞬間カルマの顔が強張る。ひどいなあ、一応お父さんなのだが。


「うふふ、お父さんに緊張しているのね。仕方ないわね、だって今日がほとんど初対面みたいなもんよね、カルマにとっては」

 カルマの性格はどうやら私に似てしまったらしい。ルイーズに似ていたらもっと人懐っこくてかわいがられる性格だったろうにと、少々残念に思った。


 宮廷音楽士は、貴族のスポンサーの協力が必要不可欠である。かわいがられない性格では苦労するのだ、若き日の私のように。


「やれやれ、未来の宮廷音楽士がこんな性格じゃ先がおもいやられるな」

「あなたのピアノを聴けば、カルマもあなたに対して興味を持つはずよ、カルマは音楽が好きだもの」

「だといいが……」

「旦那様、ルイーズ様、ご夕飯の用意ができましたよ。すぐに食べられますか?」

「ええそうするわ。マリア、カルマもそろそろお腹が空く頃じゃないかと思うし」


 食卓にはいつもより少し豪華な食事が並ぶ。ウサギシチューや、固めのパン、サラダ、チーズ、ジャム、ワイン、蒸し貝……。この辺の近くに海はないので、海産物が食卓に上がることは珍しい。しかし、ハインリヒもルイーズも蒸し貝は好物なのであった。


 普通貴族はもっと豪華な食事を食べる。例えば、上記の食事に、デザートや生のフルーツやシャルキュトリーがつく。宮廷音楽士は下級貴族だ。贅沢はほとんどできない。普段はもっと質素に食べているぐらいだ。


 軍事に携わる貴族の一家はもっと高級だ。滅多に市場に出回らない魔物食材を使った料理を日常的に食べるらしい。


 接待の食事会で食べたことはあるが、そんなに美味しいものだとは思わなかった。しかし食べると魔力が向上するらしい。戦闘力において、魔力=強さだ。だから、軍家は給料も高く支給されるし、食事も豪華になりやすい。


 比べて、音楽と魔力の関係に特別な相互作用はないとされている。実際私は炎魔法を一応使えるが、仕事でこの力を発揮したことはない。そういう職業は、軽視されがちなのだ。仕方がないことではあるが……。


ルイーズの家は学者であるが、彼女の家の地位が低い方なのもそれが原因だ。


 ルイーズは光魔法だったか。彼女が魔法を使っているところはみたこともないので、よく分からないが。


「そういえば、あなた。一年ぶりに帰ってきたということは今年もあれが……?」

「ああ、その時期ということだ。面倒くさいが……。やるしかあるまい、これも仕事だ」

「今年はカルマも?」

「ああ、王はそれを望んでおられた」

「そう。よかったわね、カルマ。王様がカルマをお目にかかりたいそうよ」


「私は今から作曲に取り掛からねばなるまい。今年用の饗宴音楽タ―フェルムジークを作成せねば」

















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