第2話 我が家

 僕は1歳の誕生日を迎えようとしていたと思う。この世界の暦も現代日本と同じ太陽暦なのか、そもそも年齢を一年ずつ刻む文化があるのかは定かではない。……が、数日前から母がそわそわしていること、数字が書かれたカレンダーらしいものを僕にみせながらにこにこしていることから推測した。


 カレンダーだけが推測の手がかりではない。僕はすごく蒸し暑い日に生まれた。成長するごとに暑さは増した。やがて、暑さが和らいできたかと思えば、いきなり寒くなった。もっと寒くなって雪がちらついて、母も家にこもりがちになって……。そしてまた暖かくなり散歩に連れて行ってくれたりした。そしてまた蒸し暑くなったので、母は僕の体調を気にかけたり、窓を開け放ったりしている。


 どうやらこの世界には四季がある。そして、その四季が一巡りする間に僕は”まー”(ママ)と言う単語と”あー”(乳母さん)と”まんまー”(ごはん)、”だー”(嫌だ)、”んー”(うん)、”ぶー”(ううん)、などを話せるようになった。つまり赤ちゃん言葉、喃語だ。なかなかに上手だろう?喃語にしては。


 喃語は1歳半ぐらいまでの発達の目安ということなので、僕は多分それぐらい、つまり1年と考えていいんじゃないかと思っている。


 この世界には四季があり、誕生日を祝う機会もある。数字はローマ数字が用いられている。有名なシリーズもののRPG作品に触っていてよかった。あの作品はシリーズ毎にローマ数字を用いるのだ。言語は、注意深く見聞きしていればなんとなくわかってきたが、英語や日本語やその他ヨーロッパ言語がぐちゃぐちゃに混じった言語をしているらしい。建物の装飾や、服装をみて大体中世ヨーロッパの文化なんじゃないかと思う。豪奢な装飾だ、ロココ風というべきか。世界史の授業でそんなのを耳にしたことがある。ゲームに出てくる家具でロココ風のものがあったから覚えている。


 でもいくら豪華そうな見た目であっても住み心地がいいかといえば案外そうでもない。豪華なのは飾りものだけなのだ。部屋はやたら広いのだが熱が逃げやすく冬はものすごく寒い。そうなると暖炉かなんかで頻繁に薪を燃やしてほしいものだが、母は薪を無暗に燃やそうとしない。

 あまりお金がないのかもしれない。ドレスも普段着用のは夏用と冬用の二着だけ。あとはお出かけ用のものが一着。頻繁に着替えをしない文化なのかもしれないがそれにしても少ないなと思う。

 その一方でメイドさんは2人と乳母さんは1人いたりするのでよく分からない。ドレスよりも人件費の方が安いということか?


 と、なると。僕の両親も何かしらの仕事をしているが、あまり良い給料をもらってはないのだろうか。母の仕事は知っている。ピアノの家庭教師だ。僕も一度仕事場である貴族の家にいってレッスンの様子を見たことがあった。5歳ぐらいの赤髪の少女に教えていた。レッスンの曲は、『池の雨』。有名なピアノ教室のCMの曲にもアレンジされているぐらい有名な曲だ。僕もこっそり口ずさむ。



 そういえば、父は何の仕事をしているのだろう。実は父の姿を見たことがない。僕が本当に小さいときには会っていたらしいが(というような会話は母と乳母の会話を聞いてなんとなく察せられた)少なくとも秋以降は一度も会っていない。どんな仕事をしているのだろう、所謂単身赴任というやつだろうk……


 僕は乳母に抱きかかえられ玄関に向かった。母が仕事から帰って来たのだ!

僕は嬉しくなって母に抱きかかえてもらおうとする。甘えっ子さんね~と言いながら母が抱いてくれた。僕は嬉しくなってそれまでに考えようとしていたことはとりあえず忘れてしまった。


 





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