1/4の婚約者 ~美人で人気者の幼馴染の正体は、分裂する地球外生命体?~

黒星★チーコ

第1話 めちゃくちゃ過ぎません? この幼馴染。



 202X年、5月某日。

 俺は時々、あの日の事を思い返す。

 あの日、莉愛と一緒に街に行かなければ……いや、行ったとしても、あの本屋に寄り道しなければ……違う! そもそも、あの時莉愛を先に行かせなければ。


 あの、連続通り魔事件に巻き込まれる事にはならなかったのに。



 ◆◇◆◇◆



 富良野 莉愛ふらの りあは俺の幼馴染だ。

 同じマンションに住んでいて、幼稚園から小中高とずっと一緒の腐れ縁。

 年を重ねる事に莉愛はどんどん可愛く綺麗になった。サラサラで艶々の黒髪ロングに、アーモンド型で黒目の大きいキラキラした瞳。たまにムカつく言葉も飛び出す唇は触れてみたくなるほどぷるぷるしていて綺麗なピンク色だ。


 性格も明るいし、物怖じしないからクラスのカーストでも上の方。結構モテるらしいが彼氏は居ない。そんな莉愛がたまに、ホントにたまにだけど俺に構ってくれる。

 その日の昼休みも、その「たまに」が起きたんだっけ。


「ねー貴史たかしー! 3on3スリーオンスリーやんだけど一人足りないんだよね~。入ってよ!」

「いや、女子とだろ、そんなの無理だよ……」

「でたー! 貴史の『そんなの無理だよ~』」


 莉愛はすっごくムカつく顔をして俺の真似をした。


「そんなんばっか言ってるからキモメガネとか言われんだよ?」

「えっ、嘘! 俺、女子にキモメガネって言われてんの!?」

「うっそー!」

「り……富良野!」

「わー、貴史が怒った~逃っげろー!」


 莉愛はゲラゲラ笑いながらバスケットボールを抱えて走っていった。


 ◆


 その日の放課後。


「貴史ー! 今日部活ないんでしょ。一緒に帰ろ!」


 莉愛が俺を誘った。教室がざわめき、俺たちに視線が集まるのがわかる。


「えっ……なんで」


 一緒に帰るなんて小学校の時以来だ。理由がわからなくて目をキョロキョロ動かしていたら莉愛はサラッと言った。


「えー、デートしようよ。ちょうど今見たい映画があったから奢って!」

「ひゃえっ!?!?」


 今度は教室がどよめく。そのどよめきの輪から山田が飛び出してきた。コイツ確か莉愛に気があったな。


「ちょっと待てよ莉愛! なんでそのキモメg……マジかよ!?」


 あ、山田のやつ「キモメガネ」って言おうとした。あれ莉愛の嘘じゃなかったのか。女子どころかカーストが中の上ぐらいの男にも陰で言われてたとか……。


「うんマジマジー。だから諦めてねっ。さー、貴史行こっ!」


 俺が傷つきと混乱で何も言えない間に、莉愛は俺をズルズルと引きずって行く。俺たちが出た後、教室からワッと声が上がり大騒ぎになっていた。


 ◆


「罰ゲェム!?」

「そ、罰ゲーム。3on3で負けたから」


 俺たちは今、駅に向かって歩いている。莉愛は途中のコンビニで買ったアイスを食べながらシレっとそう言ったのだ。


「……なんだ……おかしいと思ったよ」


 罰ゲームでキモメガネと呼ばれている俺とデートしろと言われたのか。肩から力が抜ける。くそう俺のときめきを返せ。


「ん? なんか誤解してない? 罰ゲームは山田とのデートだよ」

「……え?」

「貴史が入ってくれなかったからアイツを誘ったんだけど、アイツ俺が勝ったらデートしろって。ガチでキモくて引くよね? 女子との遊びバスケに本気になっちゃってさ」

「それは引く」

「でしょー!!」


 莉愛はニヤっと笑った。


「最初はジョーダンだと思ってたけど、山田のやつマジなんだもん。だから好きな人がいるから無理って言っちゃったんだよね」

「え!? そそそそそれって」

「貴史……」

「り、莉愛」

「……のわけないじゃーん!! 山田を断る口実だよ。噓も方便ほーべんってやつ?」

「……」


 今度こそ俺は肩から力が抜けすぎてガックリとなった。_| ̄|○


「あれ? なに、マジで傷ついちゃった?」

「お前……いくらなんでも酷いぞ。俺の気持ちを弄びやがって」

「やだー、貴史ったら繊細~。別に私のこと好きなわけじゃないクセにさ」

「そ、そんなのわからないだろ!?」

「わかるよ」


 急に莉愛の声のトーンが変わったので、思わず彼女を真正面から見た。こちらを見つめる大きな黒い瞳が煌めいて緑色の光が混じっている。


「小さい頃からの知り合いだから話すのに気心が知れているし、しかも可愛い。だからあわよくば付き合ったりエロイ事が出来たらいいなーと思ってるけど、本気で好きなわけじゃない。違う?」


 莉愛は微笑んでる。でも目が笑ってない。話しながら俺に一歩近づいた。思わず俺も一歩後ずさる。


「違う?」


 ……そうだ。莉愛の分析は正しい。実際中学の時は俺は別の女の子が好きだった。彼女と話しただけで心臓が苦しくてドキドキして、なんか尊いっていうの? 触るのなんて汚しそうで無理って思ってた。だから結局卒業まで告白もできなかったけど、あの時の興奮や感情を莉愛に感じた事は無い。

 ……でもそれをコイツ自身に指摘されるのは何だか悔しい。面白くない。


「違うよ! 大体自分で自分のこと可愛いって……」


 莉愛の白くて細くて長くて冷たい指がいきなり俺の口に突っ込まれた。


「ひゃ!?」


 莉愛が俺の口の中をぐりぐりする。えっ、何このプレイ。上級者向けすぎて理解できなくて、でも口を閉じたら莉愛の指を傷つけてしまうしどうしたらいいかわからない。そして、なんだかコイツの指、甘くないか? ぷるんとしてないか?

 ……いやいや何を考えているんだ俺は。彼女もいた事ないのにそんな上級者モードに慣らされてどうする……と混乱したままアホみたいに開けていた口から、莉愛はヨダレまみれの指を引き抜いた。


「ほらー、やっぱ好きじゃないじゃん。好きなら唾液に成分が一定量分泌されるハズだから。体は正直なんだよ?」

「な、なんだよソレ……なんでそんな方法」

「うわ、ばっちぃ」


 莉愛は顔をしかめて俺の制服で手を拭いた。


「ヤメろ!」


 ちょっと、めちゃくちゃ過ぎません? この幼馴染。


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