第39話 守りたいもの

「……どういうことだい?お嬢ちゃん」

「だから……このまま『儀式』が続けば地上も危険だと言うことです!」

 私は興奮気味に続けた。

「ここは空間が歪んで地上にあるように見えていますが地下なんです!このままあの巨大な木が天井を壊したら……。私達の地上の世界……大陸に大きな影響が出ます!」

 その後で思いっきりオルとハイレが笑い声をあげた。

「ここが地下?何言ってんだ?」

「こいつ、頭がおかしいんじゃないか?」

 ただアンヌだけは笑わなかった。腕組をして私の顔をじっと見る。私もアンヌを視線を逸らすことなく、にらみ返した。

「いや。こいつは嘘を言ってないよ」

 アンヌは片方の口角を上げるとため息を漏らす。オルとハイレが「え?」と同時に声を上げる。

「この島がおかしいのは薄々気が付いていたけど。まさかそんな風になっているとは。ボスもいまいち信用ならない男だったしね……」

「そんなの関係ねえだろ!俺達は大金のためにここまで命懸けで来たんだろうが!」

「そうだ!早くその子供を捕まえろ!」

 海賊兄妹以外の男達が武器を掲げ、声を上げる。その様子にパゲアの子供が鳴き声を上げた。物々しい雰囲気に私は握りこぶしを作って耐え凌ぐ。

「うるさいよ!あたしらはこの仕事を抜ける。何て言ったって家族が一番大事だからね。それに死んじまったらかねも何もないだろう?」

 両手を挙げたアンヌに他の海賊たちがうなり声を上げる。

「何だと?」

「裏切るってんなら容赦しねえぞ」

 海賊同士の仲間割れが始まった。私はその隙をついて、木の館……巨大な木に手と足をかける。

 恐らくティランノスとエドガーさんはこの木の上にいる!てっぺんが見えないぐらいに高い、タイリータウンの高層ビルほどの高さの木に私は人力じんりきで登ろうとしている。

 どれだけ無茶で、無謀なことだと分かっていても体は動き出していた。

「おい!あの木に誰も近づけるなって言われたよな!」

「早く撃ち落とせ!」

 物騒な海賊たちの声が聞こえてきても私は思わず木に強くしがみつく。

 パンッ!

 空砲が響き、私は慌てて集落を見下ろす。なんとアンヌとオル、ハイレ達が他の海賊を組み敷いていたのだ!驚きの光景に私は呆然とする。

「早く!とっとと登んな!」

 アンヌの怒鳴り声に私は弾かれたように手足を動かした。

「くそっ!行かせるな!」

 海賊兄妹達だけでは大人数の海賊たちを止めるのに限界がある。今度こそもう駄目かもしれない。思わず木の枝を掴む手が震えた時だった。

「ライリー様を守るのです!儀式を止められるのはライリー様しかいない!」

 ヴェロさんの凛とした声が聞こえてきた。

 再び地面を見下ろすと、私に狙いを付けていた海賊に木の枝が巻き付いて動けなくなっていた。どういうわけか自然が協力してくれている。

 パゲアの人達が祈りをささげてくれているお陰らしい。腕を縛られながらも手を合わせたり、地面に額をあてて祈りを捧げてくれているのが遠目に見えた。

 私はヴェロさんに向かって大きく頷いて見せると、再び天井に顔を向けた。早くティランノスの所に向かわなければ!

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