第37話 洞窟に描かれた未来

「私……ティランノスとパゲアを助けなきゃ」

 泉から映し出された過去の映像を見て、私は強くそう思った。

 お父さんは自分の身をていしてパゲアを守ろうとしていたのだ。だったら私も守らなきゃ。

 腕で乱暴に涙をぬぐう。

 エドガーさんはティランノスに何をさせようとしているのか分からない。どこへ向かったのかも。やっと心が元に戻って来たのに、動くことのできずに苛立った。

 海賊たちが上陸している今、集落に戻って誰かに聞くことはできない。だからと言って適当に動けば海賊たちに見つかって捕えられてしまう。自分で考えるしかない。

「『儀式』って言っていたけど。何をするつもりなんだろう……」

 私の呟きに呼応するように肩に光虫が止まる。お腹の当たりから青白い光を発しながら洞窟の壁に飛んでいく。私は何故かその一匹の光虫に釘付くぎづけになった。

 やがて、光虫たちが壁に集まったことで私は壁に描かれたそれを見ることができた。

「何か描かれてると思ったけど……こんな壁画があったんだ!」

 かすれてはいるものの、描かれている絵をなんとなく読み取ることができる。

「これが……儀式?」

 描かれていたのは、ベールを被った人物が祈りを捧げる姿だった。光虫は隣の壁へ移動すると別の絵が現れる。

 天高く伸びた大木たいぼく天井てんじょうと地面を割る絵だ。迫力があって思わず息を呑んでしまう。空や地面がひび割れて、その下でパゲアの人達が逃げまどっているのだ。天井からは青空が見える。不思議な絵だった。

 その絵を見ながら私は頭に浮かんだことをそのままつぶやく。

「空間が……ゆがんでる?」

 そして大木たいぼくの上で、木の枝に貫かれ、力なく横たわる祭祀長の姿を見て私は体温が急速に下がるのを感じた。

「ティランノスが……みんなが危ない!」

 気が付けば私は光虫の光を頼りに洞窟を駆け出していた。

 向けうべき場所は分かった。パゲアで一番大きな木がある場所……それは木の館だ。そこでパゲアの天井が割れるということは……地上では地が割れる。大災害が起こるということだ!

「急がなきゃ……」

 私は夢中になって走った。

 恐らくエドガーさんは……パゲアと地上を完全に繋ぎとめようとしているのだ!その新しい資源を効率的に手にするために。

 ネックレスによってパゲアに導かれたエドガーさんもきっとこの壁画に気が付いたはずだ。そして今の私のように『儀式』がどんなものかを知った。

 私が冒険したことは間違いだったのか。もう一度自分に問う。

 違う、正解にするんだ。自分の行動で。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る