第30話 礼拝
鐘の音で私は目を覚ました。今までの疲れが出たのだろう。鐘の音が鳴るまで一度も目を開けることは無かった。
結局昨夜は気になるところでティランノスの部屋から追い出されてしまったんだっけ。パゲア島の秘密とは何なのか。
昨夜の秘密を教えてくれるという言葉は本当だろうか。あまり良い反応には見えなかった。
もし、このままティランノスが島のことを教えてくれなければ、ティランノスのお父さんが亡くなったことも、私のお父さんが行方不明なことも分からないままだ。
私はモヤモヤしながらも木のベットから起き上がる。それよりもまずはこの鐘の音が何なのか確かめてからにしよう。
「何だろう?」
私が不思議に思っているところにタイミングよくドアがノックされる。顔を出したのはヴェロさんだった。
「ライリー様。
「クロノサ神へ祈りを捧げるんですか?」
私は木のベットから飛び降りるとヴェロさんが穏やかな笑顔を浮かべる。
「はい。クロノサ神だけでなく自然の全てに感謝して一日を迎えるのです。クロノサ神は私達の先祖、言わばヒト側の神様ですね」
ヴェロさんが呼び出した木の根に乗りながら私は礼拝について話を聞いた。
「私の住んでいる地域でも礼拝はありました!神様は違いますけど……。どんな儀式なのか楽しみです!」
私がワクワクしているとヴェロさんがにこりと微笑んでくれる。
「祭祀長様から
「え?それって……!島の秘密を教えてくれるってこと?」
自然と自分の口の両端が伸びていくのが分かった。昨夜の反応を見て駄目だと思っていたから嬉しい。
「ほっとしました。ティランノス様と気さくに話してくれるお方がいて……。この島で祭祀長は恐れ多いお方。対等に会話する者などいないのです」
「やっぱり……。ティランノスは肩身の狭い思いをしていたんですね」
私は顔を俯かせた。
「実を言うと。私もあまり外の者に良い印象を持っていませんでした」
「え!?そうだったんですか?とてもそんな風には見えませんでしたけど!」
私が大袈裟に驚いてみせるとヴェロさんはくすくすと笑いながら言った。
「でも今はライリーさんが来てくれて良かったと思っています。好奇心旺盛でいて、他者に敬意を払うことのできるあなただからです。それとオズウェル様も……」
「ありがとうございます。私も……。初めて冒険する場所がパゲア島で良かったです」
すでに木の館の前には島の人が集まっていた。
私はヴェロさんの後ろに付いて、集団の一番後ろに控える。そのすぐ後にティランノスが現れた。
その姿に私は思わず息を呑んだ。
白いベールを頭に
ティランノスの隣に居ると思ったのに、また遠くに行ってしまったような気持ちになった。
「クロノサ神と自然達に感謝を。今日も我らを導き、お守りくださいますように」
ティランノスが凛とした声でそう告げると片膝を着き、自身の両手を顔の前で握る。他の人達はその場に両膝を突くと、一斉に両手と額を地面につけた。
隣に居たヴェロさんも同じことをしたので私も慌てて同じようにする。その時だった。
「いてっ。何?」
手の先がぴりっとして
「す……すごい」
パゲアの人達が自然に祈りを捧げているからだろうか。集落周辺の木々が天高く伸び、風がないのに
まるでパゲアの人達に答えているかのようだった。
神秘的な光景に圧倒されながらも、改めてパゲアの人達が自然と繋がっているのだということを思い知らされた。
礼拝を終え、放心状態でその場に立っていると突然腕を引かれて私の体が揺らいで「わっ」と声を上げる。
「おい、いくぞ」
そこには不満そうなティランノスの姿があった。
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