第10話 迫る影

 まだら模様に色づく海面が陽の光を受けて輝く中、私とユジさんは船を走らせる。

「オズウェルと言えば……相棒のエドガー教授のことも気になるね」

 冒険の休息時、私はユジさんの真似をして釣りをするようになっていた。食事は栄養食で事足りると思っていたけどやっぱり飽きてしまう。

 完全栄養食が尽きてしまった時のために携帯していた魚釣りの道具を引っ張り出してきた。

 食べ物が尽きる心配はあるが、船の燃料に対する心配はゼロだ。何せこのオズウェル号、あらゆる光源こうげんを電気エネルギーに変えて海を走ることができる。

 太陽の光だけでなく月の光も、もちろん人工的な光でも燃料化することが可能だ。曇り空で光りが少なくても大きな力に変えることができる、すごい船なのだ!

 こんな風にユジさんと他愛たわいの無い話をするのもすっかり日常になっていた。街をでてからもう20日以上は経ったんじゃないかと思う。そろそろパゲア島の気配を感じても良い頃だ。お父さんの手記では座標に向かって走り続け、30日目で辿り着いている。

「エドガーさんのことですか?お父さんの葬儀そうぎの時一番泣いてましたよ……」

 エドガーさんとは、お父さんの冒険のサポート役であり資金提供者でもあった。二人は友人同士でもあったから当然だ。

「今でも私達家族の支援をしてくれています。私が飛び級で大学に通えたのも、船の学校に通えたのも全部エドガーさんの支援のお陰なんです。何ならこの小型船だってエドガーさんが作ってくれました!」

 多分、お父さんがこんなことになってしまったのに責任を感じているんだろう。時々家にやって来ては私達のことを気に掛けていた。大雑把おおざっぱ豪快ごうかいなお父さんとは正反対で、穏やかで神経質そうな人に見えた。少ししか言葉を交わしたことがないけれど、頭が良い人なんだなというのが分かる。

 きっとエドガーさんも私が突然冒険に出たのを怒っているだろうな……。そんなことのために学校に行かせたんじゃないって。帰ったら怒る人が増えて、少しだけ気分が落ち込む。

「そうなんだ……。彼が裏で支えていたからこそオズウェルは思い存分に冒険することができたって。オズウェルのファンはかなり彼のことを評価してる。彼は今何を?」

「別の研究をしてるみたいです。確か……次世代エネルギーの研究だったと思います」

「そっか……。パゲア島への調査からは手を引いたんだね」

「お父さんが帰ってこなかったから……。つらくなったんだと思います」

 私は釣糸の先、一向に動くことのない海面を眺めた。

「ライリーは?大丈夫なのかい?」

 気が付くとユジさんが心配そうな顔を私に向けている。

「はい。私は……大丈夫です!」

 だって、お父さんはパゲア島にいるはずだから!という言葉は飲み込む。お父さんは世間的に死んだことになってるんだ。驚かせるわけにはいかない。

 静かだった海に激しい水しぶきの音が聞こえ始める。

 聞こえてきたのは水上バイクのような機械音だった。ちらほらと小島こじまが散らばっている海域なので島民がいてもおかしくないのだが、不穏な空気を感じ取る。

「何だ?」

 釣竿を小船に入れたユジさんが操縦室に戻る。私も釣りを取りやめて、操縦席のディスプレイを確認した。

 レーダーに映ったのはこちらに近づいてくる三隻さんせきの船だ。漁業をするような船には見えない。私達の退路たいろふさぐようにせまっている。

 私はある一つの可能性を頭に思い浮かべて、眉間みけんにしわを寄せた。背中に冷や汗が流れる。

「もしかして……海賊?」

 


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