第3話 ゴミの海域

 私はこれをお父さんのメッセージとして受け取った。

 この手記が書かれたのは7年前。私はまだ5歳だ。なのに『十二歳の誕生日を迎えた娘ライリーと共に』とあるのは恐らく、お父さんは十二歳になった私とパゲア島に行くつもりだったのだ。

 私は画面に映し出された方角とソナーを確認しながらハンドルとレバーを動かす。ソナーというのは音波によって水中にあるものを探知する装置だ。そしてレーダーという装置によって他の船や障害物、島などを探知する。

 船の操縦は陸上で乗り物を動かす感覚とは全然違う。急にハンドルをきればバランスを崩して転覆してしまう。ゆっくりと方向を変えなければならない。

 そしてこの辺りはちょっとした難所でもあった。

 何せゴミが多い!ソナーにも複数観測され、私はなんとか船体に当たらないよう操縦を続けた。

 不思議なことに、船を操縦し始めると私は船と一体化したような心地になる。だから私は今、小型船になっている。

 どんな障害物だって華麗に避けて誰よりも先にパゲア島を見つけ出してみせる!

 海上を走っているのは船なのに、いつの間にか私自身が海上を走っているかのような気持ちになった。水の冷たさやしぶきさえ感じるほどだ。

 このままこのゴミの海域を抜けてやる!と調子に乗り始めた時だった。

 私は進行方向にある沈んだゴミのかたまりに気が付かなかった。それは浮かんだり沈んだりしてそれなりに重量のあるゴミのようだ。

 海面から見えないせいで見落としてしまっていた。単純なミスに私は自分に対して舌打ちする。

 この船のスピードのままぶつかったら確実に転覆する。

 しまった!ハンドルをきるのがギリギリになる。


 けろ避けろ避けろ避けろ避けろ……!


 心の中で呪文じゅもんみたいに呟く。体は火を噴くほど暑いのに頭の中は冷蔵庫の中みたいに冷えていた。意外にもハンドルとレバーを握る手は震えていない。


 大丈夫。私なら……できる!


 ゴミの塊が船体に近づいて来るのが体全体で感じ取れる。

 そして船はギリギリのところでそのゴミの塊を回避した。少しだけ掠ったような感覚があったけど、転覆せずに済んだ。

 初めて冒険のピンチを切り抜けた後、私は思いっきり笑った。

 怖かったはずなのに、何だか今は面白い。ひとしきり笑った後で、私は今一人なのだと自覚する。

 こういう時、面白いことを共有できる誰かがいればいいのになと思った。


『冒険は孤独なもんだ。なにせ自分の慣れ親しんだ世界からかけ離れた場所にいるんだからな』


 頭の中にお父さんの言葉が蘇る。

 冒険から戻って来たお父さんのおしゃべりが止まらないのはこういうことかもしれない。長々と手記を書くのも、冒険中は孤独だから話したくなるようなことが盛りだくさんになる。

 私も早くこのことを人に話したくて仕方なくなった。

 



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