はじまりの島パゲア~少女冒険家ライリーと祭祀長の少年~
ねむるこ
少女冒険家ライリー
第1話 家出のような船出
十二歳の誕生日を迎える今日。私の壮大な計画が動き出そうとしていた。
ここはタイリータウンの港。あちこちにビル群が見えるぐらいに発展した都市だ。私が生まれ育ってきた場所でもある。5つある大陸の中で最も大きな大陸の発展した街だ。……とは言っても私にとっては窮屈だった。どこを走っても似たような街並みが続いているからだ。
私の視線は常に海の向こうを向いていた。
私の目の前には観光客用のオブジェとして『オズウェル冒険号』と呼ばれる小型船が
この小さな船が上陸不可能と言われている幻の島、「パゲア島」まで行ったなんて想像できなかった。
用心深く周囲を見渡す。私の計画を邪魔するような人はいなさそうだった。近くにいるカップルらしき男の人と女の人が「オズウェル冒険号だって~」とはしゃいでいるぐらいだ。
私は大きく深呼吸する。
よし!今だ!
私は小型船に飛び込むと、弱めに結んでおいたロープを片手で取り払った。そのまま流れるように操縦室に滑り込む。
「この船って乗れるんだっけ?」
「レプリカじゃないか?」
突然の出来事にカップルが目を白黒させながら私のことを見ていた。
残念でした。これは正真正銘本物の『オズウェル冒険号』でした!私は笑みを浮かべながらカップルに手を振る。
「こ……子供が船に!」
異常事態に気が付いた男の人が周りに声を掛けるけど、もう遅い。私は左手のレバーを押し倒し、右手でハンドルを掴んで小型船を出航させた。
「こら!待ちなさい!ライリー!」
警備のおじさんが顔を真っ赤にさせて波止場のギリギリまで体を乗り出しているのが見える。
後ろを振り返って、混乱する波止場を見て愉快な気持ちになった。
怒ってる人、笑ってる人、呆然とする人……色んな顔に見送られて私は前に向き直る。
私は自分の足元に引っかかっていたアンカーを上げて、自由の世界へ旅立つ。
色んなゴミのせいで色んな色に染まった海が太陽の光を受けて輝いている。まるで趣味の悪いパーティドレスみたいな光景だったけど、いつもよりいい景色に見えた。
すごい。本当に計画通りに進んじゃった。
この船は偉大な冒険家であり私のお父さん、オズウェルの使っていた船でタイリータウンの隠れた観光スポットになっていた。それを私は密かに整備して冒険の時を待っていたのだ。オズウェルの娘である私が小型船に近づくのは簡単だった。
船だけじゃない。たくさん勉強して、体力づくりを続けてきた。5歳の時、「冒険家になる」と決意した日からずっとだ。
まだ心臓の高鳴りが止まらない。
少し気がかりなのはお母さんのこと。一応、置手紙を残してきたけど……すごく怒ってるだろうな。私が冒険家になることを猛反対してきんだから。
でも事前に言ったら体をぐるぐる巻きにして外に出ないようにされていたと思うから、これで良かったんだと思う。
こうして私は家出のような船出をしたのだった。
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