第42話現代の食料で異世界の人々を虜に!?
「……もう喋るな」
「はい……」
私はしばらくそのままの姿勢で、彼女の呼吸が落ち着くのを待ったが、どうやら眠ってしまったようだ。不思議なことに彼女の顔の血色はだいぶ良くなっており、胸の上下運動からも安らかな寝息が聞こえてくる。
私はカリエンテの荷物からマントを持ってくると、彼女にそっとかけてやった。
「爺さん……あんた、ずいぶん信頼されてるようだが、その女戦士さんも爺さんと同じ異世界からやって来てたりするのか?」
「えっ、ああ、彼女はここの生まれだと思うが……あまり詳しいことは分からない。何しろカリエンテ様と私は今日初めて会ったからな」
「それは本当か?よくわからんが、あの魔女といい、その女戦士といい、あんたは年寄なのにずいぶんもてるんだな。羨ましいよ……はははは……」
「い、いや、そんなことは……それよりご老人、あんたはこれからどうするんだ?」
「さあ……俺はずっとここにいるつもりだ。村はこの有り様で、村人が戻って来るかどうかもわからないが、俺はもう何処にも行きたくはないし、ここで死を待つことにするよ」
「そうか……でも、この辺りはまたすぐに獣たちの遊び場になってしまうかもしれないぞ」
「ああ、それなら心配ない。そうなった方が俺はきっと楽になれる……」
「なあ、ご老人」
「ん??」
私はトウメイン・ピエニーの入った瓶を開け、
錠剤をいくつか取り出すと、それを老人に差し出した。
「これは……薬か?いったい何の薬なんだ?」
「これはな、透明人間になれる薬だ」
「…………」
「生きたいと思ったなら使ってくれ」
「なら使うことはないだろうな……」
「それなら誰か信頼できる人や助けてやりたい人に出会ったらその人に渡してくれ。いいか、絶対に捨てないでくれ!私が生涯をかけて開発したすごい薬なんだからな」
「ははは……じゃあそんな奴が現れるまで少しだけ生きてみることにするかな……」
それから私たちはしばらく無言で、カリエンテの眠る姿をじっと見守り続けていた。
カリエンテは何故こんな酷い目にあってまで魔女を倒すことに執着しているのだろうか。
だが、いくら考えても答えなど出るはずもなく、私は結局、ここで彼女が目覚めるまで待ち続けることにした。
そして、辺りを照らす月明かりがさらに明るさを増した頃、私は焚き火の準備を始めようと立ち上がる。
「ご老人、私はその辺で枝を拾ってくる」
「ん、俺も手伝おうか」
「いや、あんたはカリエンテ様を見ていてくれ。何か危険なものに会っても私は透明になって逃げればいいだけだからな」
「ああ、わかった。気をつけて行ってこい」
私は薄暗い廃墟の中を歩きながら、ぼんやりと後悔する。
明るい内に探しておけばよかったじゃないかと。
やはりまだ頭の調子が戻っていない。
いまだに合理的に物事を考えることができないのだ。
崩れた瓦礫や廃材をかき分けながら進み、私は適当な長さの枯れ木の束や藁を拾い集めていく。
「さて……これだけあれば十分だろう」
実験器具を入れた箱に着火剤とライターが入っていたはずだが、久しぶりに手作業で火を起こす必要があるだろう。何しろこの世界にマーケットはないからだ。
い、いやあるかも知れないが、その品揃えは私が知るそれとは大きく異なっているはずだ。燃料が切れたら自分で作るしかないのだ。
節約しておかないと後が大変だ。
枯れ木と藁を抱えながら小走りで急いで戻ると、カリエンテが上半身を起こし、老人と何かを話し合っている姿が見えた。
「爺さん、カリエンテさんはお腹が空いたらしいぞ」
「なに!?カリエンテ様、それは本当ですか!?」
「ふん……」
カリエンテはこちらを一睨みすると、再び横になり目を閉じてしまう。
「あの?」
「さっさと用意しろ」
「Yes, I do.」
「黙れ」
威勢よく返事をしたものの私が都合できる食事は、カリエンテの荷物の中の底で潰されるように折り重なっていた不気味な色合いの干し肉と、
たまたま私の持ってきた箱に入っていた数か月前に賞味期限の切れた携帯保存食しかなかった。
しかし、今は食べ物を探して外をうろちょろしている場合ではないのだ。
これでも何も食べさせないよりはましだろうと私は老人と一緒に食料を取り出してカリエンテの前に並べた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます