第26話私の頭は狂ったまま

「やだ!やだ!おじいちゃまの顔が見たい!私のことを見て喜んで欲しいの!!それで、アイドルに……」

「ミチェリお嬢様……あなたは間違っています」

「ええっ……まま、まっ、間違っているのっ!?」


「あなたには皆を惹きつけるような魅力があります。皆が応援したくなるよう物を持っています。お嬢様に必要なことは自分を信じることです。私のような者ではなく、自分の力を信じてください」

「で、でも、でもぉおおっ!!」


私は言葉を適当に継ぎ接ぎし、二度と思い出せないようなそれっぽいセリフをひたすら彼女に投げつけていた。しかしミチェリは頬を紅潮させ、目の端から大量の涙をこぼし、体を震わせる。


「お嬢様……」


ああ……私はもう彼女から逃げることが出来ない。

結局、元の世界でもこの世界でも私の頭は狂ったままなのだろう。私を殺そうとした魔女のために必死に頭を悩ませているのだから。


私はミチェリの前に膝を付くと、その震える小さな肩にゆっくりと語り掛ける。


「ミチェリお嬢様、聞いてください。……私はこの世界に来て生まれて初めて、心の安らぎを得られました。私はこの世界に来なければ一生、心の底から笑うことなど出来なかったでしょう。私はこの世界で生きる意味を見つけることができました。それはとても素晴らしいことで、そして何より尊いものだと思っております。だからこそ、私はお嬢様にもそれを見出して欲しいのです」


作戦変更だ。

ミチェリにお願いすれば魔物の襲撃も中止にできるのかもしれない。まずはこのまま彼女を撤退させるのだ。


今さらこの子を追い払ったところで家やら物資が戻って来るわけではないが、破壊や略奪を止められるならばそれに越したことはないだろう。

それに……カリエンテに見つかる前にミチェリをこの場から離すことができれば……カリエンテとこの子は殺し合わずに済むはずだ。


「……おじいちゃま?」


ミチェリが私を見つめている。

私は彼女の目を見ながら言葉を続ける。


「……ミチェリお嬢様、私があなたの側にいることで、あなたが意味を見出せるのなら、私はあなたの側にいたいと存じております。ですがその前に、この老人からあなたにお願いがございます」

「なぁに?教えて!聞く聞く!何でも言って……!おじいちゃまのお願いなら聞いてあげるっ……」


「はい、実はですね。この村の魔も……」


しかし、その時だった。空気が一変したかと思うと、周囲にざわめきが戻ってきた。まるで今まで凍結されていた時が動き出したかのような感覚を覚える。

急な変化に対応できず、私は眩暈でふらつき、思わず腰を下ろしてしまう。


「ひ、うああ……」

「おじいちゃまっ」


ミチェリが心配そうな顔を浮かべながら私に手を差し伸べてくる。


「あ、ああ、ありがとうございます。申し訳ございま……」


氷のように冷たい手。

驚きのあまり手を離してしまいそうだったが、何とか堪えて私は彼女の手を取り、立ち上がる。


「……魔法使い」


そうぽつりと呟き、氷の杖を取り出したミチェリの視線の先にいたものは私にも見覚えの有る人物だった。

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