8.映画と正しい休日の過ごし方
「映画行かないの?」
「もう少し、こうしていようよ」
「あん、もう。抱きついてこないでよ」
「えー、時間あるしさ、ね? もう一回」
「映画行くって言ったじゃない」
「んー、ほら。サブスクでいろいろ観れるよ」
「そうなんだけどさあ、映画館で観ようねって話したじゃない」
「これ、とかどう?」
「あたし、もっとしっとりした映画がいいな」
「えー、これ人気なんだよ? カーアクションがかっこいいって」
「あたし、そういうの、あんまりわかんないんだよね」
「じゃあ、これは?」
「あー、うん、これは泣けるよね」
「じゃあ、これで!」
「でもさ、これは一人で観たい映画なの」
「えっ! おれと観るのが嫌なの? 誰と観たの? ひどいっ」
「……あのさ。一人で観たいって言っただけじゃない。山ちゃんと観たくないわけじゃないよ」
「他の誰かと観た、想い出の映画なのかと思って」
「そういうわけじゃない。……ちょっとリモコン、貸して」
「何観るの?」
「これ! これがいいな」
「……ぜんぜんしっとりしてないじゃん。まあ、あずがいいならいいけど」
「うん、これにする! あたし、このシリーズ好きなんだ」
「おれも好き。こんな能力あったらいいよね」
「……バカじゃないの?」
「あー、バカって言った!」
「……どんな能力が欲しいの?」
「んーと。時間を操れるのかな」
「何に使うの?」
「小さいころのあずを見に行く。小学生とか中学生とか高校生とか。……かわいいだろうなあ」
「……キモいんだけど」
「ひどっ」
「だって、キモいよ、それ」
「なんだよう、こんなに好きなのに」
「ちょ、映画観るんじゃないの?」
「まあまあまあ」
「……」
「あず~」
「……ねえ、結局、映画観に行かなかったし、ここで映画も観ないまま、一日が終わりそうだよ」
「いいじゃん。ぎゅう~」
「ぎゅう、じゃなくて」
「一日中、まったりベッドの中。正しい休日の過ごし方じゃない?」
「それはそうかもしれないけど」
「ごろごろして、ぎゅってして、まったり。最高じゃん!」
「……なんか、騙されている気がする」
「騙されてない、騙されてない」
「あっ、すりすりしないで」
「いいじゃん」
「だめだめ。髭、いたい」
「そんなに?」
「んー、ちょっと」
「どう?」
「じょりじょりしていや」
「えー」
「ねえ、お腹空いた」
「んー、どっか食べに行く?」
「もうめんどくさいよ」
「じゃあ、出前」
「うん」
「ピザでいい?」
「いいよ」
「どれにしよう?」
「薄いやつがいいな。種類が色々あるやつで」
「オッケー」
「ピンポン鳴ったら、山ちゃん出てね」
「え?」
「えって、あたし裸だもん」
「おれも裸だけど」
「服着ればいいじゃん、一瞬で! あたしは何かと面倒だもん」
「わ、分かった」
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