7.箱根

「気持ちのいい日になったね、山ちゃん」

「うん、運転していてもいい感じだよ」

「音楽、このままでいい?」

「いいよ。――あ、これ、すき」

「山ちゃんが好きだって言っていたから、入れておいたの」

「ありがと、あず」

「うん。……あ、富士山! 今日は富士山が見えるよ。写真撮ろう」

「海もきれいだね」

「うん。きらきらしてる」

「あずといっしょだから、嬉しいよ」

「今日はまず、芦ノ湖に行くんだよね?」

「そう、それで遊覧船に乗ってロープウェイに乗って、大涌谷まで行こう」


「遊覧船、楽しいね、山ちゃん」

「外行こうか。景色きれいだし」

「うん、行く。……きれい。空も青くて」

「鳥居が見えるよ」

「ほんとだ。……緑の中にある、赤い鳥居、いいね」

「あず、すきだよ」

「……ん」

「……風が気持ちいいね」

「うん」


「ロープウェイ、どきどきする」

「山ちゃん、高いとこ、苦手だった?」

「少し」

「でも、ほら、覗いてみてよ、きれいだよ! ほらほら!」

「やめて、あず」

「……ほんとにこわいんだね。車にしとけばよかった?」

「でもほら、あずがロープウェイに乗りたいって言うから」

「ふふ、ありがと」

「あず」

「……ん、……ちょ、それ以上はやめて!」

「あず、だいすき」

「ああん、あたし、景色見たいー」

「おれはあずが見たい」

「後ろから抱いて、ぎゅってしているから見えないじゃない」

「後ろ姿もすき」

「いやいやいや、あたし景色見る! ぎゅうってしないで」

「ふふ」

「きゃっ、く、くびはやめて」

「……あず」

「きゃっ、み、みみもだめっ」

「ん~。ロープウェイもいいね。いろいろ出来る」

「だから、だめだめー! そもそも丸見えだしっ」

「見えてない、見えてない」

「……もう!」

「いたっ。何するんだよう」

「何するんだよう、じゃ、ありません! 全く」

「だってさ」

「だってさ、じゃ、じゃありません! 全く!」


「大涌谷着いた! おれ、黒たまご食べたい」

「黒たまご?」

「そう。温泉で作ってるんだよ」

「ふーん、山ちゃん、食べるの、好きだよね」

「うん!」

「……わあ、すごい景色! 湯気? 蒸気? 硫黄のにおいがする」

「歩いて景色見ようよ。そんで、いっしょに写真撮ろ?」

「うん!」


「大涌谷、きれいだったね」

「うん、よかったー。わたし、遊覧船もよかったよ」

「この宿もいいね。露天風呂ついてるよ! いっしょに入ろう!」

「えー。……ちょっと見てくる……わあ、素敵」

「でしょ? ほらほら」

「って、脱がすのやめて!」

「でもね、どっちみち脱ぐじゃない?」

「……そうだけど、でも。……あっ!」


「いいお湯だねえ」

「うん、きもちいい」

「おれ、あずとまったりするの、すき」

「そうだね」

「明日帰るんだなあ」

「月曜日は会社だしね」

「……つまんない」

「しかたないよ」

「ずーっとあずとこうしていたい」

「それは無理。働かないと、だし」

「うう。仕事、行きたくない」

「楽しいこと、考えよ?」

「いまが楽しい」

「来週もどこか行く?」

「映画とか?」

「観たいの、あるの?」

「うん」

「じゃ、映画で」

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