4.潮干狩り

「海だ!」

「海だね」

「潮干狩りだ!」

「うん、チケット買わなくちゃ。ほら、あそこだよ。山ちゃん、いっしょに並ぼう?」

「うん」

「あたしも荷物持つよ」

「じゃ、これ」

「はい。晴れてよかったね」

「雨だったら、出来なかったね」

「さすがに雨は嫌だよ」

「よかった! あっ」

「何?」

「金のはまぐりだって!」

「え?」

「金のはまぐりが埋まってるって書いてある! おれ、金のはまぐり見つけたい」

「無理だよ」

「え~~~~~」

「まあ、あったらね、くらいの気持ちでいれば。金のはまぐり見つけると、どうなるの?」

「海苔とかもらえるみたい」

「そんなの、そこのお土産屋さんで買えばいいじゃない」

「夢がないなあ、あず。見つけるのが楽しいんだよ」

「あっ、そこのお土産屋さん、ごはんも食べられるみたいだよ」

「ほんとだ。なんかおいしそう」

「あたし、はまぐり焼きとか食べたいな。金じゃなくていいから」

「……あず」

「なによ。あ、順番来たよ」

「ほんとだ」

「貝さあ、一人二キロまでなんだね。それ以上は別にお金がかかるんだ」

「二キロってけっこうあるよ」

「二キロって、どれくらい? 山ちゃん」

「この網いっぱいくらい?」

「へえ、たくさんだね。頑張って採ろうよ」


「椅子が沈む~」

「山ちゃん、太ったんじゃない?」

「ひどっ。おれ、そんなに太ったかな?」

「さあ。でも、食べてばっかりいるから」

「そんなに?」

「うん。こないだも、風邪治ったから焼き肉行くぞーって言って、焼肉行って、すごい食べてたじゃない」

「そんなに食べてないよ」

「食べてました! また、あたしの分も勝手に焼くし、お皿に入れるし」

「だって~」

「だって、じゃありません。風邪ひいても肉だし、風邪治っても肉。ほんと、肉ばっかり」

「今日は貝だよ!」

「砂抜きするから、食べれるのは明日じゃない?」

「えっ、そうなの?」

「そうだよ、何言ってんの」

「今日、食べれると思ってたー」

「まあ、頑張って明日、貝のお料理作ってよ」

「え?」

「えって、あずが作ってくれないの?」

「あたし、明日は眠りたいな、自分のベッドで」

「ええ~。明日もいっしょだと思っていたのにー。じゃあ、おれ、あずんちに泊まるー」

「は? 嫌だけど」

「あず~」

「はいはい、貝採って」


「おれ、もう疲れた~」

「ええ? 山ちゃんが行きたいって言ったのにぃ」

「うん、でも疲れたから休憩する」

「あたしはもうちょっと採りたいな」

「んー。ねえねえ、貝料理って、何作る?」

「山ちゃん、作れば? 検索してみなよ」

「ボンゴレ」

「いいね。じゃ、一品はボンゴレで」

「酒蒸し」

「いいね。じゃ、あとは酒蒸しで。レシピ見て作ってね」

「あず、作ってくれないの?」

「じゃあ、一品ずつ作ろうよ」

「うん」

「山ちゃん、もう採らないの?」

「なんか疲れた」

「全然、二キロも採ってないよ」

「でも、もう疲れた」

「もう、しょうがないなあ」

「お腹空いた」

「じゃあさ、さっきのところで何か食べようよ。それから、スーパー銭湯に行くの」

「うん!」

「ところで、金のはまぐりは探さなくていいの?」

「はまぐりはいくつか採ったから、いいや。無理だよね、こんなに広いのに」

「最初から、そう言っているじゃない。……あ、放送だ」

「……金のはまぐり見つけた人、いるんだね。いいなあ。まだあるみたいだから、おれ探そうかな」

「そうしたら? あたし、ならまだ貝採りするし」

「……やっぱいいや。あず、ごはん食べに行こうよ。お腹空いたもん」

「はいはい。……山ちゃん、採った貝、あたしより全然少ないじゃん」

「う。だって、疲れたんだもん」

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