2.ねえ、潮干狩りに行こうよ

「山ちゃん、それで風邪、治ったの?」

「うん、おかゆのおかげ! ありがとう!」

「肉も焼いてあげたけどね」

「うう、ありがと、あず!」

「だって、だいすきって言うから……きゃっ。急に抱きつかないでよ」

「だってだって~~~~」

「もう、離れて」

「やだやだー!」

「やん、においかがないでよ」

「……あず、いいにおい」

「やめてやめて。恥ずかしい! もう!」

「ふふっ」

「……ねえ、どこか行きたいところがあるって言ってなかった?」

「そう!」

「どこ行きたいの?」

「潮干狩り、行こうよ!」

「ええ~」

「……嫌なの?」

「まあ」

「どうして?」

「だって、日焼けするし」

「うん」

「汚れるし」

「うん」

「……小さい頃は好きだったけど」

「だよねっ」

「山ちゃんはどうして潮干狩りに行きたいの?」

「なんか好きなんだよ。砂の中で貝を探すのが」

「それはなんか分かる。手に貝の感覚があるとすごく嬉しいの。いるいる~ってなると、夢中になって採っちゃうよね」

「でしょでしょ」

「あっ。だから抱きついてこないでよ」

「あとさー、潮干狩りって、家族の行事って気がしない?」

「家族?」

「うん! なんか、幸せな家族の象徴的な?」

「じゃあ、あたしたち、家族じゃないから行けないね」

「えっ! 違うのっ?」

「……彼氏と彼女だもん」

「かぞくかぞくー!」

「けっこん、してないでしょっ」

「え?」

「は?」

「結婚しなくても、家族だもん。それに、いつか結婚するんだもん」

「はいはい」

「あっ、その言い方、冷たい!」

「はいはい」

「あず~」

「あ、だから、抱きつかないの!」

「え? だって、くっつきたいもん」

「あん、もう」

「あず、やわらかい」

「……潮干狩り、行かないの?」

「行くよ」

「……だって……」

「ん」

「……準備は、……任せたから」

「いいよ」

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