風邪をひいたら肉 ――山ちゃんとあず

西しまこ

1.風邪をひいたら肉

「風邪ひいたら肉だよね」

「え? おかゆじゃないの?」

「おかゆだと、力が出ないじゃん! 肉だよ、肉!」

「風邪ひいていなくても、肉ばかりじゃん」

「肉はパワーの源だから!」

「……いいんだけどさあ。焼き肉のとき、一人で肉食べないで欲しいんだけど」

「え? そんなこと、してないよ」

「しています」

「してない!」

「あとね、勝手に焼くのもやめて欲しいし、勝手にお皿に入れるのもやめて欲しい」

「親切に焼いてあげてるのに」

「あたしは自分のペースで焼きたいんだってば!」

「……分かった。もういっしょに焼き肉に行くのはやめよう」

「うん、そうしよう。ワリカンだと損した気分になるしさ」

「あっ。何、その言い方! ひどっ」

「ひどくないよ。だって、どう考えても、山ちゃんのが食べてるし!」

「あずだって、食べてるよ! おれ、ちゃんと数えてお皿に入れているもん」

「だから、それがよけいなことだって言ってんの」

「あず~~~~」

「もう。じゃ、あたし帰るっ」

「えっ。おれ、熱あるんだけど?」

「何度?」

「えっとねえ。三十六度八分」

「平熱だよ、平熱」

「ええええ。おれ、平熱三十五度八分だよ。だから熱だよ、熱。あず、お肉焼いて?」

「いや。めんどくさいし、それ熱じゃないし」

「ううう。ひどい、あず」

「全然ひどくない。明日、仕事だし。じゃあね」

「待ってよ、あず」

「元気だから、いいじゃん」

「肉~肉~肉~~~~~~!」

「もう、うるさいよ。おかゆのレトルトあげるから、それ食べときな」

「えっ。あず、もしかしてわざわざ買って来てくれたの?」

「だって風邪ひいたって言うから」

「あず~うれしいよお。おかゆ、食べる!」

「……分かった、じゃ、チンしてくるね」

「そのあとで、肉も!」

「うるさいよ、もう」

「……ごめん。あず、だいすき」

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