テミストクレスとサラミスの海戦
サラミスの海戦に関して、ヘロドトスの『歴史』より。翻訳が酷くないので読みやすいですが、長いです。
(1)「今や、卿がこれ等の人達の説を入れて軍船を地峡へ移さずに、むしろ私の言う事を聞いてここに踏みとどまって海戦を行われるならば、卿はギリシャを保全することができる。つまり、どうか両説どちらも聞いた上で比較していただきたい。もし地峡で戦争するならば、卿は洋々たる大海で戦うことになるであろうが、それはより重いかつ数において劣勢な艦船を擁する我々にとって、最も不利なのである。またたとえ我々が他の点で成功したとしても、卿はサラミス、メガラおよびアイギナを失うであろう。そして、彼らの水軍とともにその陸軍も一緒に来るであろうし、かくして卿は自ら彼等をペロポネソスへ導いて、全ギリシャの安危をかける事になるであろう。これに反し、もし卿が予の言うとおりにするならば、卿はそれに次のような利益の含まれている事を見いだすであろう。まず第一に、狭い場所で多勢を相手に無勢をもって海戦を交え、もし戦いがその当然の結果を産み出すものとすれば、広い場所での海戦が彼等に有利なのに対し、狭い場所のそれは我々の利となるから、我々の方が断然勝つであろう。それから、我々が妻子を避難させているサラミスも無事である。それに、ここに踏みとどまれば、卿は地峡におけると同様にペロポネソス防衛の海戦を行なう事になるであろうし、また実際もし卿が思慮を誤らなければ、彼等をペロポネソスへ引き入れないであろうという卿が最も執心しておられるその事も、こうすれば可能なのである。そして、ともかく余の期待するとおりになって、我々が海戦に勝利を得るならば、東夷軍は卿等の地峡へ迫ることもなければ、アッテティカ以上に進撃する事もなく、全く支離滅裂になって退却するであろうし、メガラもアイギナも、また神託によっても我々が敵を制圧するはずの地点になっているサラミスも、安泰である事によって我々は利益をかち得るであろう。それで、道理にかなった議決をする人々には通例理にかなった結果が生ずるのが常であるが、道理にかなわない議決をする人々には、神も決して人間の見解と歩調を合わせたまわないのが普通である」。
(2) そこで、テミストクレスは自分の意見がペロポネソス人のために敗れようとするや、ひそかに会議に席から出て行き、退出の上、ある男に述べる口上をさしずして、彼を船でメディア軍の陣地へ派遣したのであるが、彼はその名をシキンノスといい、家僕であってテミストクレスの子弟の教育者であった。この事があって後、テスペイア人が移民をポリス民へ迎え入れていた時に、テミストクレスが彼をテスペイア市民に列せしめ、かつ、富に恵まれた人にしたのはそのためであった。この人が当時船で行って、東夷軍の将領達に以下のように申し入れた。「アテナイ軍の将軍は(まさに王の味方であって、ギリシャ軍よりもむしろ貴軍の方が勝利を得られる事を願うによって)、ギリシャ軍が恐怖に襲われて逃走しようと評定している事を知らせに、他のギリシャ人には内密で私を派遣したのであって、今や、もし卿等が彼等の逃走するのを見逃さなければ、卿等は何よりも最もりっぱな働きを仕遂げる事ができるのである。すなわち、彼等は互いに心も一致していないし、もはや卿等に抗戦もしないであろうし、卿等は彼等が卿等に意を寄せる者とそうでない者との2派に分かれて、彼等同士で海戦を交えるのを見るであろう」彼はこう彼等に通報した上、その場から立ち去った。
解説です。
ヘロドトス(B.C.484~B.C.425年頃)の伝える、サラミス海戦直前のギリシア軍の状況は、相当に緊迫したものがある。(1)は、テミストクレス(B.C.528~B.C.462年)の主張するサラミス湾内での決戦の論拠である。コリントスやペロポネソス勢は、反対であった。ギリシア海軍の3分の2を擁するアテネは、クセルクスによって、アッチカを蹂躙されていたから、船上だけが祖国であるというテミストクレスの言葉には迫力がある。ペロポネソス勢の反対にあって、テミストクレスが考えた詭計が、(2)に示す内容で、ペルシア側へギリシアの軍議を伝えさせる。
驚いたペルシア側は、ギリシア海軍が逃げ出す前に全滅させようとして、狭いサラミス湾に大艦隊を突入させたから、身動きできず、小型のギリシア艦隊に敗れてしまったのである。
このサラミスの海戦の勝利は、また労働者級が船の漕ぎ手として活躍したことで知られる。戦後、直ちに民主化が進行した訳ではなく、かえって、アレイオス=パグス会の権威が高まった。漕軍の漕ぎ手に8ドラクマ与えるように提案して、途方に暮れていた将軍たちを救ったのが、その権威を高めたのである。しかし、民衆派が台頭し、エピアルテスの改革によって、再びその権限を縮小して、アテネの民主政は完成期を迎えるのである。
漕ぎ手の活躍ですぐに民主政が進んだわけではないというあたりが、よくわかりませんが、お金を配って解決したということですね。
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