お気持ち表明
瞬きをした瞬間、目の前にはとてつもなく大きな壁があった。
壁、木でできた壁。よく見れば虫食いの跡がある。
「…………」
なぜかいように重たい頭を上げながら周囲を見渡す。両開きの窓からは青空と白い雲が見えた。部屋は大きく大きなベットが一つだけ。床にはなにかしら奇妙な刺繍が縫われたカーペットのようなものまである。
わからない…なにがどうなっているのだろうか……俺は取りあえずここから移動しようと立ち上がった。その時だった。膝にかけた自分の手の大きさに気が付いたのは。
小さい。あまりにも小さい。それはまるで子供のような手だった。そしてよく見れば体全体が小さい。顔を触ればもちもちとした弾力。自分の強張った頬骨と大きな鷲鼻は消えていた。そしてなにより余りにも肌が白すぎる。
俺は余りにも咄嗟の出来事と情報量の多さから、立ち上がった後も目を見開いたまま窓の方を見つめていた。
なんだこれは…なにが…いや……なにが……は?
今まで生きて来てこのような体験は一度も経験したことのない俺は、頭がパンク寸前だった。だがそんな状態で脳裏にうっすらと浮き出た閃きに、俺はすぐさまベットの脇にある小さなチェストに手を伸ばした。三つの引き戸の一番上を開けると、いろんなものが乱雑に置かれていた。筆にインク入れ、何枚かの紙切れ、十字架のようなシンボルマークが彫られた小さな本。そして櫛に手鏡。
予想通りに鏡を見つけた俺はそれを手に取り、次の瞬間には鏡は手から滑り落ちていた。見間違えじゃない。色白の肌。青い瞳。金髪。細く高い鼻。彫の深い目元。
床に落ちた手鏡を拾うと、少し震える手でもう一度俺は顔を確認する。ひびが入った鏡には――まぎれもない白人の子供が居た。
「は……はっ!……マジか……ぁ…あぁ…そうか…そういうことか……」
異世界転生。
きっとそうに違いない。
もしかしたら東欧の貧しい田舎町かもしれないが…少なくともこの現実離れした出来事に俺は根拠のない確信を得ていた。
「ははっ……なんだよそれ…マジで……ふっ…ふふっ…ははは!!」
……生きてる…生きてるんだ俺は!!
生まれ変わった……ありえねぇ…でも俺はっ……生きてる。
「ふはははははははは!!生きてる!!よし…よし!よし……ゃぁ!!」
俺は拳を握りしめながら開いたチェストの中身を一点に見つめていた。今度こそ絶対に……好き勝手生きて…そして生き抜いてやる。
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