紅一点の最強魔法使い、恋愛トラブルはもうごめんなので女の子と旅に出ます
べにたまご
幻の秘湯で出会うもの編
第1話 私が西都最強パーティを辞めた理由
私の名前はカナデ・アーデルライト。
年齢は25歳。職業は冒険者。ジョブは魔法使い。
ちなみにレベルは239。西都リベルタでは魔法において私の右に出る者はいない。
そんな私が所属するパーティも西ギルド最強と誉れ高い。
5年前にはドラゴン討伐隊にも参加し、ボスのレッドドラゴンを討ち取ったほどだ。
周りから多少の嫉妬はされるけど、それを打ち消すくらいの名声や称賛を得ている。
日頃の稼ぎもいいし、レッドドラゴン討伐で王家から莫大な褒賞ももらった。
それに仲間もみんないい人たちで、紅一点の私にもとてもやさしくしてくれる。
まさに順風満帆な人生。
冒険者としてはこの上なく成功しているはずだ。
でも、最近の私には悩みがあった。
それは……。
「カナデ。難しい顔してどうした?」
「!」
木陰で休んでいた私は声をかけられ、慌てて顔を上げる。
すると、赤髪の青年がこちらを覗き込んでいた。
彼の名はルーク。
常に率先して前に出る勇敢な剣士で、パーティのリーダーだ。
性格はわりと俺様系だけど、それに見合う実力を持っている。
「な、何でもないですよ」
「そうか?」
気を遣わせまいと私が首を横に振ると、彼は自然と隣に腰を下ろす。
ちちちち近い……!
いや、生死をともにした仲間同士と考えれば普通の距離感だろう。
そう自分を納得させつつ、私はジリジリとお尻を横へスライドさせていく。
「なあ、カナデ」
「はひゃいっ!?」
突然、肩をグイッと抱き寄せられた。
ひいぃぃ!
私は心の中で悲鳴を上げる。
「次の休日、暇か?」
「予定はないですけど……な、何で?」
「だったら俺と出かけようぜ」
そんな決定事項みたいに言われても……。
さすがにちょっと強引すぎて引く。
こういうのが好きな女性もいるんだろうけど、私はむしろ苦手だ。
それに正直ルークに俺様系で来られてもキュンとしない。
長い付き合いだから彼の黒歴史もいろいろ知ってるし。クエスト中に漏らしたとか。
ガサッ
私がルークの誘いからどう逃げようか考えていると、誰かが草を踏む音が聞こえた。
そちらへ視線を向けると、そこには金髪の青年が立ってこちらを見下ろしていた。
彼はヴォイド。ルークの幼馴染だ。
「ルーク、セクハラですか?」
ヴォイドはメガネをクイッとやりながら冗談交じりに言う。
キザな仕草だが、彼がやるとクールに見える。ルークとはまた違ったタイプの美男子だ。
「カナデが困っているでしょう。さ、こっちへ」
ヴォイドは私の手を引いて立ち上がらせ、ルークから引き離す。
と、勢い余ってそのまま彼の腕の中に抱き寄せられた。
「あっ! す、すみません」
それまでのスマートさから一転、ヴォイドは顔を真っ赤にして狼狽する。
「いや、そんな謝らなくても」
別に胸とか触られたわけじゃないし。
しかし、ヴォイドはオロオロするばかりだ。
5秒前まで紳士だったのが、急に思春期に逆戻りしたみたい……。
この見た目で女性に慣れてないって、人に言っても信じないだろうなぁ。
「なんだよヴォイド、お前の方がセクハラしてんじゃねーか」
「黙りなさいバカルーク」
「んだとぉ!」
さらにルークが絡んできて、ふたりはそのまま口喧嘩を始めてしまう。
私は巻き込まれないように、その場からそっと離れるが……。
「何ナニ? 何してるのー?」
「ひゃあっ!」
いきなり背後から抱きつかれ、私は思わず悲鳴を上げる。
振り返ると、よく見知った童顔の少年が私の首に両腕を回していた。
「ロ、ロマーニ。急に抱きつかないで……」
「だって僕が偵察してる間にふたりがイチャイチャしてるんだもん」
「イチャイチャなんてしてません!」
ロマーニは成人しているはずだが、言動がやたらと幼い。声も甘ったるい感じで、耳元で話されるとゾワゾワする。
「疲れたよー。僕もカナデに甘えさせてー」
「ギャー!」
首筋に顔をぐりぐりしてくるロマーニに、私はついに悲鳴を上げた。
彼はいつもこんな感じだが、この言動が刺さる人には刺さるらしく、西都のお姉様方に結構モテるようだ。
「おい、ロマーニ。カナデから離れろ!」
「彼女の美しい黒髪が汚れるでしょう」
ちなみに、今結構キレてるこっちのふたりもモテる。そりゃモテるって見た目してる。
「嫌だよー。ねぇカナデ、あっちに川があったから、ふたりで水遊びしようよ」
「待てコラ! 勝手なことするな!」
「そうですよ。カナデさんを濡らして何をする気ですか?」
「お前も何想像してんだムッツリメガネ」
「誰がムッツリですって?」
あわわわ……。
私を中心に口喧嘩を始める三人を見てると、目がぐるぐるしてくる。
私の悩みとはこれだ。
最近こういう些細な諍いが増えた。
男3人のパーティに女が1人。
そりゃ昔からトラブルがゼロだったわけじゃない。
たとえばルークが私の着替えを偶然覗いちゃったとか。
でも昔はそれをヴォイドが注意したり、ロマーニがからかったりで済んでいた。
けど最近はこう、言語化が難しいけど、空気が違う気がする。
3人が牽制し合っているピリついた空気。
私はこの仲間内でギスる寸前の雰囲気を身に染みて知っていた。
いや……魂に染みついて、だろうか。
「カナデは今度俺と闘技場観戦に行くんだよ!」
「はぁやれやれ。カナデさんに相応しいのは知的な天文台でしょう」
「カナデは僕と海に遊びに行くんだよー」
私が目をぐるぐるさせている内に、いつの間にか三人の口論は「私が誰とデートするか?」という内容に変わっていた。
って、ええぇぇ!?
何それ聞いてない。いや、聞いてなかったけども。
ただでさえパーティがこんな空気なのに、そんな話されたら……。
これ以上、仲間がギスらないで欲しい。
「あ、あのぉ!」
私は意を決して三人を止めようと声を上げたが。
「「「カナデは誰を選ぶんだ」」」
「ぴゃいっ……」
逆に三人から答えを迫られ、私は小動物みたいに情けない声を上げて縮こまる。
あ……無理だこれ。
私の中で何かが切れた音がした。
そして、私はその日の内にギルドの受付に退会届を提出。
止める職員の声から逃げるようにして、冒険者を辞めたのだった。
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