見えないのに祓いたい飼い主が、なぜかお化け退治系配信を始めました。でも、ボクはただのもふもふワンコなのでスローライフを希望しますっ!!
美杉。節約令嬢、書籍化進行中
第1話 もふもふ配信ならぬボクっ娘配信
「ぅぅぅぅ。もぅヤダー。飼い主ぃ、もう帰ろう? ボク、もぅ限界だよぅ……」
我慢の限界を超え、ボクは泣きそうになりながら声を上げた。
じっとりと纏わりつくような重く、どんよりとした空気。夏の湿気と言ってしまうには、ソレはあまりにも気持ちが悪い。そして湿気が充満するせいか、息を吸い込むごとにすえたカビ臭さも入り込んでくる。
でも、そんなことよりも、だ!
ボクはスース―する足元を隠すために内股で小さく歩いていた。歩きづらいことこの上なく、どうしてボクがこんなモノをこんなトコで着ないといけないんだょ。思わず白目になりかけながらも、ボクは必死に訴えた。
「ねー、もぅ帰ろうよ? くさいし、きたないし。おうちがいいよ。ゲームしたい。お布団に入りたい。飼い主ぃ」
ボクの斜め後ろを歩く、彼女に声をかけた。すると視界いっぱいに、彼女は嬉しそうな笑顔を見せる。こんな場所で、どうしてそんな笑顔が見せられるのか……。
だけど彼女の手にしっかり握られたビデオが、全てを物語っていた。
「えー。まさか、こんな入口で怖くなったん? 帰ったらいつものよーに、よしよししてあげるからね」
甘く魔性を思わせる声の彼女は、撮影係に徹しており、安定に今日の出演も声のみ。そう、このカメラが映し出すのはいつもボクだけだった。
「よしよしはして欲しぃけど、怖いし、臭いし。だいたい、もうこれはそれ以前の問題だよ、飼い主!」
「えー? そう?」
強く地団駄を踏んだことで、腐りかけた床がぎしりと音を立てた。ボクの小さな悲鳴が、高い空間に消えていく。思わず涙目になりながら、自分でも全身が震え上がったのが分かった。
「ほら、そんな顔せーへんとって? みんな喜んでいるみたいだぉ」
彼女こと、ボクの飼い主である
「みなさん、こんばんわー。今日もぉ、男の娘そーちゃんの活躍楽しみにしてね‼ 応援してくれると、そーちゃんがオバケ退治頑張っちゃうゾ」
[おっふぅ、困り眉のそーちゃんかわゅ]
[ふぉぉぉぉぉ、モジモジして、ナニを隠してるんだ、その短いスカートの中にはぁぁぁぁぁ]
[つか、こんな暗いトコで飼い主とナニしているんだ! ナニだナニ!]
[何興奮してんのw ワロ]
[モジモジもっとしてくれぇーーーー。廃校でJKの女装とか、サイコーすぎる]
[ナニはナニだよ。男の娘×女飼い主は百合なのか? オイ、百合なのか!]
あああ。もう、ボクは言いたい言葉を全てのみ込んだ。
飼い主が始めたこのお化け退治系配信。リスナー確保のために、ボクを飼い主は無理やり女装をさせて男の娘にされた。そう、毎回リスナーからのアンケートで、服装が際どいモノになっていくし。いや、別に女装は嫌いじゃ……ごにょごにょ。
ただ問題はこのナリと胡散臭さで、リスナーがボク目当てのHENTAIさんだけになってしまったコトなんだ。マトモな人が本当にいないんだよね。
「ほらー。みんなそーちゃんかわゆだってぉ? 嬉しいねぇ」
「ボクは可愛くないし、嬉しくない!」
「相変わらず、ツンデレさんやなぁ」
「ツンデレでもないってば! っていうか、この衣装歩きづらいんだけど」
「なぁに? ちゃんと似合っているぉ?」
「あのねボク、男の子だよ? みんなソコちゃんと分かっているの?」
「いややわぁ。ちゃんと分かってるょ? 男の娘だって」
ううう。もぅ嫌だよぅ。こんな生活、ボクはいやだ。ボクは飼い主とただ普通に暮らして行きたいのに。
それにお化けが退治出来たって、どれだけ頑張ったって、フェイクや嘘だって言われた結果がコレだし。
[男の娘サイコーっす。尊すぎる]
[ぐはぁ、触りてー。よしよししてーよー]
[うぉぉぉぉツンデレ属性追加キター!]
[あの耳、ケモ耳ヤバっ。クニクニさせてくれぇぇぇ。あああああ、触りたい]
[生えているのか? アレは生えているのか? イヤ、アレ以外も生えているのか? おいー]
[そーちゃんが涙目になっているだろ、おまえら! もっと優しい目で撫でまわすように見てやれよ!]
「みんな、そーちゃんのお耳がいいんやって。ということで、今日はサービスサービスぅ」
「え、なに……やだ、全然いい予感しないんだけど」
カメラを持ったまま、ジリジリと飼い主が距離を詰めてくる。
さっきからみんなが注目している耳。これは作り物なんかじゃない。ちゃんと生きた耳なんだから、いたずら禁止。こんな場所で触れらたくないんだけど! か、感じちゃったらどーするんだよ!
「ごめんやで、そーちゃん。全部コレのためやから、諦めてね」
飼い主は親指と人差し指をくっつけ、お金を表した。この世界で生きていくためには、たくさんのお金がかかる。ボクたち二人はこの世界の半端者であり、底辺と言っても過言ではないほどの貧乏だ。だからこそ始めた、この配信。半端者であり、使えないボクを拾ってくれた恩が飼い主にはある。あるけども――
「いやだぁぁぁぁ!」
叫んで走り出そうとしたボクは、振り向いた先で異変を覚えた。
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