唇の中で泳ぐ金魚

りりぃこ

第1話 チハルちゃんは少しビッチ

 私の幼馴染であるチハルちゃんは、たちの悪いビッチである。

 チハルちゃんはいつも、私の彼氏や、いい感じになっている人を、もれなく略奪してきた。

 何度も何度も、邪魔してきた。

「あんな男、ユカちゃんに釣り合わない」

「ちょっと私に誘われたくらいでコロッといっちゃうような男、馬鹿でしょ」

 そういいながら、私の彼氏を略奪したその唇で、わたしの頬に何度もキスするのだ。

「ごめんね。ユカちゃんにイジワルしてるわけじゃないの」

 イジワルじゃなければ何なのか。特に初めの頃は、チハルちゃんをとんでもなく詰って、そして何度も絶交してきた。

 それでもチハルちゃんは、私にごめんねといいながら、ギュッとしてきた。


 何度目がの略奪のあとには、もういいか、という諦めの境地に達していた。

 チハルちゃんの言うとおりだ。誘われたからってすぐにチハルちゃんと寝るような男なんてくだらない。そんな風に思うようになってきてしまった。


 それに、チハルちゃんはすぐに私の彼氏を略奪するけど、自分で彼氏を作ったことはない。いつだって私が望めば甘やかしてくれる。

 趣味に付き合い、ほとんどいつも一緒に食事をし、悲しいときには一緒に泣いてくれて、そしてたまにキスしてくれる。

 私は、チハルちゃんがいれば無理に彼氏を作る必要はないのだ。


 そう、簡単に考えていた。私はずっとチハルちゃんの近くに居すぎて、私自身の狂気に、慣れすぎていたのだ。


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