Day17 海を漂うのは(お題:砂浜)

 視界に広がるのは、青い空、白い砂浜、青い海、そして――海を漂う赤い蟹。

 何かを察したのか、蟹が勢いよく砂浜に向かって泳いでくる。とっさに私の前にサミーが立った。蟹は砂浜にあがり、立ち上がると、そのまま横方向に移動していった。ほっと胸をなで下ろす。

「本当に巨大な蟹が動いているわ……」

「ケイトさんから話を聞いたとき、そんな蟹を道具として作るのかって、半信半疑で思いましたが、本当にいましたね」

 二人で呆然と蟹――いや、蟹の形をした魔法道具の動きを眺める。


 私があの魔法道具を作成した男性と話をし、認可は無理だろうと思いながら見送った後、上司からお願いを申し出されたのだ。

 曰く、その男性は権力のある人間と知り合いで、その人を使って圧力をかけてきたということだ。

 私はあんな危険な魔法道具を認可できないと言い放った。よくないとは思いながらも、録音していた内容を聞かせた。それを聞いた上司も眉間にしわを寄せていたが、せめて現物を見てから判断して欲しいと、泣き言を出されてしまったのだ。

 現物を見て、それでも私が無理と判断したのなら、上司はその意見をくみ取って、権力のある方にも頑張って説明するといっていた。


 つまり、とりあえず現場に行って欲しいの一点張りだった。

 そこまで頼まれたのなら仕方ない。仕事を片づけて、今日はサミーと共にこの砂浜に来たのだ。


 蟹の形をした魔法道具は、横方向に軽やかに動いていた。この滑らかな動き、一見して道具とは思えない。

 サミーが近くにあった枝を蟹に向かって投げつける。蟹は枝を察知したのか立ち止まり、そこに向かって大きなハサミを動かした。そこから風の刃が出現し、枝を真っ二つ切り裂いた。大きくない的だが、きっちり当てたのは賞賛に値する。

 作り手である男性が、顔のサイズくらいのボールを蟹の前に転がすと、蟹は視線をそこに向け、口から炎を吐き出した。ボールはあっという間に炭になる。

 今度はサミーが手で握れるくらいのボールを勢いよく投げつけた。蟹の甲羅の部分に当たったが、びくともしなかった。


「本当に説明書きにあったとおりの、攻撃と防御ですね」

「そうね、複数の属性が作用しあっているという事も、よくわかった。反応もいい」

 言い換えれば、ちょっとしたことで、すぐに攻撃を加える可能性があるという事だ。

 作り手の男性が、満足げな表情をして来た。実物を披露することができて、嬉しいのだろう。

 私は蟹が妙な動きをしないよう、横目で見ながら話しかける。

「あの魔法道具はどう制御するのですか? 私が見る限り、自動で動いているように見えるのですが」

「あらかじめどのように動くかは、魔法道具に入れ込むことができます。追加でも指示はできます」

 男性は真っ赤な石を差し出す。

「この石と同じものが、魔法道具に埋め込まれています。この石に話しかければ、魔法道具も動きます」

 男性は口元に石を寄せた。

「海へ行け」

 そう言うと、蟹の形をした魔法道具は一目散に海へと移動し、中に入っていった。赤い甲羅がぷかぷか浮いている。

「どうですか、すごい順応さでしょう」

「そうですね……」

 仮に、あの魔法道具を犯罪目的で使おうという人がいたら、どうなるだろうか。相手を間接的に攻撃ができれば、使い手はそう簡単に捕まらないだろう。

 もし認可を出すとなった場合、かなり制限を付けないといけなくなりそうだ。

「さて、この魔法道具、すごいでしょう。認可してくれますよね!?」

「……上と話し合います……」

 ここで攻撃でもされたら、大変なことになるので、適当に濁した返答をするしかなかった。


 その後、ケイトは上司や他の課の人間など、多くの人を巻き込んで、認可を出すか出さないかを話し合うのだった。

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