Day9 見逃す(お題:肯定)

 何でもかんでも人が言っていることを否定してはいけないと思う。

 かといって、何でもかんでも肯定してはいけない。

 その場で勢いよく肯定したことで、思わぬ結果に転んでしまう可能性があるからだ。


 ある魔法道具があった。

 それは扱いは難しいが、説明書をきちんと理解した上で使えば、多くの人々に恩恵を与えるものだった。そのため、その町ではその道具を魔法使いが管理し、使用していた。


 しばらくは特段、問題はなかった。恵みの雨を意図的に降らせて、田畑に潤いを与えていた。町の人々は、なんと素晴らしい魔法道具か、と何度も言っていた。

 だが、唐突に悲劇が訪れる――


 実はその魔法道具には欠陥があったのだ。けれども、不具合が起こる確率は、かなり小さいと言われていた。

 その欠陥を徹底的になくすのに年月を費やすよりも、一日も早く世に出した方が困っている人の生活を即座に助けることができる、だから――と、道具の作り手に言いくるめられて、担当者は認可が出してしまったのだ。


 本来なら、欠陥があるものは絶対に認可できない。だが、担当した人間は出世したかったため、数をこなし、世に影響力がある道具を認可したかったのではないか――という噂も漂っていた。

 その噂の真相を正すために、本人から直接話を聞きたかったが、私が入局したときには、その人は退職していたため、聞き出すことはできなかった。


 結局、真実は謎のまま。

 その魔法道具によって、一つの町の田畑を壊滅状態に追いこんだという事実は残った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る