Day7 気になる相手(お題:酒涙雨)

 サミーはビールが入ったコップを片手に号泣していた。その様子を彼の同期でもあるピースが、苦笑いしながら眺めている。明日、仕事は休みとはいえ、さすがに飲み過ぎではないだろうか。

 ピースはフライドポテトを乗せた皿を彼の前に持ってくる。これ以上はできるだけお酒は飲まさない方がいい。

 サミーはポテトを口に入れ、食べ終えてから口を開いた。

「ケイト先輩がつれない……。俺、たくさん仕事を教えてもらったり、日常の話題を振ったりしているけど、なんか業務口調で……」

 ピースもポテトを食べながら、適当に相槌をうつ。

「先輩、仕事が忙しいんじゃないのか? だからサミーにまで気が回らないとか」

「そうなのか? 俺、わからねぇよ……」

「お前と先輩の様子を目で見ていないから、俺から助言はできないが……。さっきも言っていたが、今日もまだ残っていたんだろう?」

 サミーは定時であがり、ピースと飲みに来たが、ケイトは机の上すら片づけていなかったという。話を聞く限り、忙しそうだ。

「時期を見て、自分なりに距離を縮めていけばいいんじゃないのか? ご飯とか誘ったらどうだ? 息抜きにご飯でも行きませんかって」

「……なんか慣れた口調だな。さてはピース、誘ったのか!?」

 ぐいっと顔をつきだしてくる。近すぎるので、両手で近づくのを阻止する。

 ピースも気になる女性の先輩職員はいる。そして今度、昼ご飯を食べにいくことになっている。

 だが、どちらかといえば、ピースは彼女に気遣われている立場なので、誘ったというよりも、誘われたという方が正しい。

 しかしサミーは沈黙を肯定と受け取ったらしく、椅子に深く座り込んだ。

「はあ、どうやって誘えばいいんだよ」

「それは会話の中でうまく誘導していくしかないだろう。俺とお前は性格も持っている能力も違うから、俺の真似はするな。お前自身のやり方で、先輩に近づいていけ」

 サミーは口を尖らせながら、残っていたビールを一気に飲み干す。そしてジョッキを机の上におき、逆の手の指で机に小さな円を描き始めた。

「ピースはいいよな、魔法使いで。凡人よりも色々とできるから、その先輩も魔法を使っている姿を見て、ころっといったんじゃないのか?」

「感謝はされたが、別に……」

「なあ、雨を止ますことはできるのか?」

 窓から外を見ると、先ほどから延々と雨が降り続いている。傘を使う必要がある雨の量だ。

「自然現象の雨なら、無理矢理止めることはできない。道具を使っての雨なら、道具の程度にもよる。この雨は……自然現象だな」

 ピースがはっきり言い切ると、サミーは顔を机の上に突っ伏した。

「雨止んでくれよー。帰るのだるいー」

「お前なぁ、そんな都合のいいことがそう簡単に起きるわけないだろう」

 魔法は万能ではない。できること、できないことがある。魔力を込められた道具もそうだ。できる範囲で、最大限生かすしかない。



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