Day3 夢物語(お題:文鳥)
今日は窓口に来て、色々と質問をしてくる人が多い日だった。
魔法道具は各企業や個人で製作され、認可を取ったのちに、市場に出回っている。そのため製作した道具に関しての問い合わせは、その企業宛になるが、魔法道具に関する大雑把な質問をしたいときは、認可部に問い合わせをしてくることが多い。特に多い質問は、こんな魔法道具はありますか? だった。
今日もかなり不思議な魔法道具の問い合わせがきた。私と同年代くらいの女性が、目を潤ませながら窓口を尋ねてきたのだ。
「あの、文鳥と会話ができる魔法道具ってありますか!?」
それを聞いた瞬間、私は目が点になってしまった。
失礼だが、この人は何を言っているんだ? と思ってしまう程の問いだった。これを口から出さずに、飲み込んだ私を褒めて欲しい。
気持ちを切り替えるために、コホンと咳払いをする。
「すみません、差し支えなければ、そういう道具があって欲しい理由を教えてくれますか?」
「あ、はい。実は最近、私が飼っている文鳥のピッピーの機嫌が悪いんです! 好物をあげても、お気に入りのおもちゃで遊ぼうとしても、全然見向きもしてくれないんです!」
私は思わず頭を抱えてしまいそうになる。魔法があれば、何でもできると思っている人間は少なくない。だから、まるで夢物語のような魔法道具もあるだろうと思い込んでいる人も一定数いるのだ。
彼女を怒らせないよう、また納得して、早くお帰りになってもらえるように、言葉を選びながら発する。
「それは大変ですね。……結論から言いますと、そのような目的の道具を認可しているものはありません。そもそも魔法使いが魔法を使ったとしても、他の生き物と意志疎通をすることはできません。ですから、魔法道具にもそのようなものはないのです」
「魔法って、何でもできるんじゃないんですか?」
例に漏れず、彼女も魔法は無限大の可能性を秘めていると誤認している人か。
私は首をゆっくり横に振った。
「いいえ、魔法は自然の力を人間の手によって強めたり、弱めたりすることで、少し不可思議な現象を起こすだけです。人間と他の生き物の会話は根本が違いますから、それを魔法で解決というのはできません」
はっきり言うと、女性はうなだれた。私は一般論と自分の考えを交えて、一人の人間として提案する。
「これは私個人の意見ですが……、飼っている文鳥の体調は大丈夫ですか? 一度お医者さんに見てもらってはどうですか?」
「でも、それでピッピーが痛い目にあったら……」
「医者は注射を打つだけが仕事ではありません。相談にも乗ってもらえますよ」
それから何とか説得し、文鳥を医者に見せに行くと言わせたところで、女性には帰ってもらった。
「魔法で何でもできたら、今みたいに制限なく生きれませんよ……」
やれやれと肩をすくめながら、女性の背中を見送った。
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