無名のエロゲ声優の君が人気少年漫画のドラマCDの主役となるその日まで

生永祥

♪ Take1 貴女ではない

輪久りんくを演じるのはひとみさん、貴女ではない。これが我々少年ガーディアン編集部からの返答です」


 店内に喧噪が響き渡る昼下がりのファミリーレストランの一画で、十条歩じゅうじょうあゆむは、声優の牧野まきのひとみに冷たい言葉を言い放った。


 ひとみは当初自身が担当する漫画の、ドラマCDの主人公役に起用された声優であったのだが、今回上司の判断で、その役を降ろされることとなった。


 二人の間に気まずい空気が流れる。


「……ひとみさん、あのっ!」


 何を言っても彼女を傷つけるだけだと解ってはいたが、それでも歩はひとみに向かって声を掛けずにはいられなかった。

 

 そんな歩の心情を察して、ひとみは穏やかな声で、歩に向かってこう言葉を掛けた。


「歩さん、私は大丈夫です。声優業界で役の変更や降板は結構あることなので。……だから大丈夫です。今まで私のことを編集部の皆さんに推薦してくださって、本当にありがとうございました」


 そう言って優しく微笑み、丁寧にお辞儀をしてこの場を去るひとみに、歩は自身の胸が酷く締め付けられていくのを感じた。

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