第21話 病気の娘のために村の作物を盗んでいた農民と、言いがかりばかりのムカつく奴
洞窟から出て来た俺たちを、バルバトスたちは出迎えた。
「ジェイド~!」
ルリが泣きながら俺の方に駆け寄って来る。
「ああ!」
俺は思わず、ルリを抱き締めてしまった。
「うん!」
涙目のルリ。
可愛いな。
「ジェイド、ありがとう!」
「え? 何が?」
「戻って来てくれて、凄く嬉しかった!」
「そうか。よかったな」
俺は微笑んだ。
「あのね、ジェイド。私、謝りたくって……」
「何を?」
「私、ジェイドがツネナリに酷いことをされて虐められてるって思って……ごめんなさい!」
「あ、ああ。まあ、いいよ。大丈夫上手くやってる」
俺はツネナリの嫉妬の視線を感じた。
どうやら、俺のことを羨んでいる様だ。
「ところでその男は誰だ?」
バルバトスがファクトを見た。
「こいつはファクトという村人です」
「そうか」
「こいつの処分は任せてもいいですか?」
「わかった。こちらに任せろ」
バルバトスはファクトの顔を見た。
「お前、どこかで見たことがあると思ったら、あの時の……」
ファクトは震えていた。
「覚えてたか! そうだ! 俺だよ! !」
「なぜ、俺たちを止めたのか、本当のことを話してもらおうか」
バルバトスは剣を構えた。
「王族のせいだ。俺が貧しいのは。ささやかな復讐だよ」
ファクトは淡々と話した。
「そうか」
「俺たちはいくら働いても豊かにならない。王族が税金として沢山持っていくからだ。だから俺は、村の作物をゴブリンを使って盗んだ」
ゴブリンと手を組んでいた。
人間にもそんな奴がいるのか……
◆
「ファクト。お主はなんてことを……」
村長が頭を抱えている。
村長の家にみんな集まった。
「村長。俺は自分の生活を守るためにやっていたんだ。病気の娘のために金が必要だったんだ」
盗んだ作物や家畜は、商人に売り飛ばしていたらしい。
ファクトの娘は彼の腕の中で寝息を立てている。
「お主はこのままでは、この村にいられないだろう」
「ああ。わかっている」
ファクトは観念したようだ。
バルバトスは何も言わなかった。
村のことは村の者に任せるつもりなのだろう。
「このまま娘を連れて出ていけ」
ファクトは無言で立ち上がった。
踵を返し、去って行く。
「これで一件落着かな」
俺は呟いた。
「うん! そうだといいな」
ルリが悲しそうに言う。
「だけど、俺はあいつが許せねぇ」
ツネナリが拳を握った。
「ツネナリ、我慢しろ」
バルバトスは、村の決めたことに口出しはしないつもりの様だ。
「違う。俺が許せねぇのはジェイド、お前だ」
「は?」
なんで俺?
「お前、俺が襲われてた時、じっと見てただけじゃねぇか!」
ツネナリは俺に詰め寄った。
「ツネナリ落ち着け」
「落ち着いてられっかよ!」
ツネナリは今にも殴りかかってきそうな勢いだ。
「何だよ!助けたじゃねぇかよ!」
俺は反論する。
「もっと早く助けろよ、じゃあ。お前、本当は俺が殺されるのを待ってたんだろ?」
「待ってねえわ! バカかお前!」
「バカとはなんだ、馬鹿野郎!!」
ツネナリは激昂して、俺の胸ぐらを掴んだ。
俺は必死に抵抗する。
バルバトスが間に入って来た。
「おい!二人ともやめろ!どっちが本当のことを言ってるんだ?話しは俺が聞く」
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